第7話 優の好奇心

木の影に隠れながら、裏門の様子を伺う。裏門前に近藤が立っていた。近藤は外を向いて、走ってくる生徒達に声をかけながら迎え入れている。

「あともう少しだぞー、がんばれー」

近藤は厳しい先生だか、体育教師としては優しいほうだと思う。時には体育会系という感じの事を言い出したりするが、生徒思いだ。顔もくやしいがイケメンだ。女子生徒のファンも多い。しかし、結婚はしていない。運動ができる優しいイケメンが結婚をしていないとなると、逆に色んな噂が流れる。極度のマザコンなのか?とか、もしくは同性愛者なのか?とか、勝手に憶測が独り歩きしている。『おっ、優発見。よし、また優の隣にどさくさに紛れに合流しよう』翔はそう決めると、優が来るタイミングを測った。裏門から優が入ってくる。近藤は相変わらず外を見ていて、こちらを見ていない。『よしっ、チャンスだ』翔はパッと飛び出し、うまく優と合流した。優もすぐに翔に気づき、2人で親指を立てて、グッとポーズを決め合った。仲良くグラウンドのトラックを半周周り、2人は無事にゴールした。

「翔、うまくやったな」

息を切らしながら、優が小声で言った。

「優、ありがとう。本当に助かったよ」

翔は息を切らしたフリをしながら、小声で優に返事をした。

まもなくすると、いつもビリでお決まりの奴がゴールした。それと同時に近藤もグラウンドへと戻ってきた。

「よしっ、みんな全力で走りきったみたいだな。各自ストレッチしたりして、そのまま解散していいぞ」

そう言うと、近藤は校舎へと向かって歩き出した。と思ったら、途中で足を止めみんなの方を振り返った。

「おい、翔。ちょっと来い」

近藤が翔を呼んでいる。翔は優の顔を見ると、優も翔の顔を見た。『バレたか』という空気が2人の間に流れた。翔が近藤の側に向かった。

「はい、先生なんですか?」

「翔、お前ちゃんと走ってたか?」

「はい、ずっとちゃんと走ってました」

「俺はずっと裏門でみんなが戻って来るのを迎えていたが、お前が入ってくる姿を見なかった。本当にちゃんと走っていたか?」

「あ‥‥‥はい‥‥‥ちゃんと走ってたと思います」

「‥‥‥俺の目を見ろ」

翔は近藤の目を見たが、近藤の圧に負けてしまい、一瞬にして目を逸らした。

「‥‥‥‥ちょっとだけ走ってないかもです」

「そうだよな。後で職員室へ来い」

「はい‥‥‥」

近藤は再び校舎へと向かって歩き出した。翔はトボトボと優の近くへと戻った。

「‥‥‥翔‥‥‥バレちゃった?」

「うん、バレてたみたい。みんながちゃんと外を走ってきてるのか、裏門に立って見張ってたらしい」

「その為にわざわざ裏門にいたのか。やられたな」

「後で職員室に来いって言われた」

「そっか‥‥‥」

「あっ、そういえば優に話したいことがあったんだ」

「おっ?どうした?」

「俺さ、立ちションするのイヤでさ、旧校舎に入れないか、入り口探したんだよ」

「えっ?そうなの?さっさと立ちションして用を済ませて、のんびりと昼寝でもしてたのかと思ってた」

「俺も悩んだんだけどさ、もしも立ちションしている姿を誰かに発見されたら、立ちションプラスサボりっていう最悪なパターンだなと思って」

「あははは。確かに。立ちションする為にサボったみたいになるもんな。でも、実際そういうことなんだけどな」

2人はクスクスと笑い合った。

「まぁ、確かにそうなんだけどね」

翔は笑いながら苦しそうに答えた。

「話の続きだけど、旧校舎に入れる扉を見つけたんだよ」

「おぉ、ラッキーじゃん。それで中に入ったの?」

「うん。中に入ってトイレ見つけて、ちゃんとトイレで用が足せた」

「おめでとうございます」

「そこまではよかったんだよ。まだこの話には続きがあるんだ」

「うん?あっ、わかった。大きい方もしたとか?」

「イヤイヤ、違う違う。それならまだいい方だ」

「なにがあったの?」

「用を済ませたあと、みんなが戻ってくるまで、旧校舎内を散策したんだよ。どこも何も置いてない空き教室だったんだけど、一部屋だけソファが置いてあって、気になって中に入ってみたんだ」

「うん、それで?」

「なんか座り心地の良いいいソファでさ。うっとりしたんだよ」

「そのソファの座り心地が、俺に話したいことなのか?」

「イヤ、それもあるけどもう一つあって‥‥‥その教室に、未練仏がいたんだよ‥‥」

「えっ?本当に?」

「うん、本当に。俺もなんだかよくわからなくなっちゃって、とりあえず、すみませんって言って出てきちゃったよ」

「そんなことがあったんだ。その未練仏はどんな人だったの?」

「制服を着てる女の子だった。歳は俺達と変わらないぐらいだと思うから、多分女子高生だと思う」

「そっか‥‥可愛かった?」

「はぁ‥‥優は女の子って聞くとまずそこを確認したがるよな。可愛いか可愛くないかで言うと、わからない」

「わからない?微妙な人だったのか?」

「イヤ、よく見てないし、よく覚えてない。そんな冷静に顔を見れる余裕はなかった」

「そっか。でも、気になるな」

「俺も気になるんだよ。あのソファって、旧校舎を使わなくなってから、誰かが持ち込んだ物だと思うんだ」

「俺はその女の子のが気になるけど」

「おいおい、やっぱりお前は女の子のことか」

「お互いの気になることを解決しに、後で行こうよ?」

「えっ?あの教室に?行くの?」

「うん、行こうぜ。行ってみたい」

「うーん‥‥‥わかった。でも、余計なことはしないようにしよう」

「うん、OK。昼休みに行くのはどう?」

「昼休みか‥‥‥俺、近藤に呼び出しくらってんだよな‥‥‥」

「あっ、サボった件か。でも、昼休みいつも近藤捕まらないぞ?俺も前に職員室に呼び出されて行ったけど、昼休みはいつもいないんだよ。だから、放課後に行けば?」

「そうなんだ。行ってもいないなら意味ないからな‥‥でも、一応顔だして、近藤いなかったら旧校舎行くのは?」

「うん、わかった。いなかったら言い訳できるもんな。そうしよう」

2人はお昼休みに旧校舎へ行く計画を立てた。その後の授業は、優はなんだかソワソワと浮ついた空気を出していた。『よっぽど楽しみなんだな。でも、行っても楽しいことがあるっていう保証はないんだけどな』翔はそう思いながら、浮ついた優を横目にお昼休みまでの授業を過ごした。そしてお昼休みを迎えた。

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