みれん愛~未練仏からの伝言~

キツネ

第1話 青春時代を生きる翔と未練仏

僕はいつものように彼女との待ち合わせ場所である、公園の入口に着いた。

『‥‥昨日はいなかったのに‥‥』

昨日はいなかった場所に、子供が立っている。

『‥‥あの子‥‥死んじゃったんだ‥‥可哀想に‥‥』

どこにでもありそうなよくある公園。

ブランコ、鉄棒、ジャングルジム、砂場、滑り台。

定番遊具の揃った何の変哲もない公園。

その公園の広場の端っこにある、大きなケヤキの木の下に、その子は立っている。

年齢は5歳ぐらいだろうか。もちろん見た目は幼いが、どこか少ししっかりしている雰囲気すら感じる。

どこかの幼稚園の制服だろうか。紺色のブレザーに紺色の半ズボン、紺色のベレー帽を被っている。背中には黄色いリュックを背負ている。半ズボンだから、男の子に違いない。

泣くこともなく、取り乱したり、騒いでいる様子もない。

ただ黙って、何かを待っている、そんな風に見える。

子供ながらに、自分が死んでいるということを、ちゃんと理解し、悟っているのだと思う。

「カッくん、おはよう」

彼女の声で、我に返った。

「あ、鈴リンちゃん、おはよう」

「あの子‥‥死んじゃったんだね‥‥」

「そうみたい‥‥」

「まだ小さいのにね‥‥あの木の下に、何か未練があるんだね‥‥」

死んだ人が成仏できずに未練のある場所に縛られてしまう。世間では未練仏と言われている。翔カケルはそういう世界に生きている。もちろん、この世に何も未練がない人は、そのまま成仏できる。と言っても、あの世、極楽浄土、天に帰る、言い方例え方はたくさんあるが、実際にどうなるのかは死んだ人にしかわからない。未練のある場所にいる人間は、その場所に縛られていて、薄く、半透明で見える。こちらの言葉は伝わるが、それ以外のことは何もできない。向こうから話をしてきても、こちらには聞こえない。口の動き、体の動きで何を言いたいのか感じ取ることしかできない。もちろん、触れることもできない。あの子の親があの子を見つけても、抱きしめてあげることはできない。

「カッくん、学校へ行こう。遅刻しちゃうよ」

「あ、うん、そうだね、行こうか」

翔達は学校へ向かって歩き出した。

翔と鈴は同じ高校2年の同級生だ。毎日こうやって学校へ通っている。鈴とは高校に入ってから出会った。翔の一目惚れだった。いつでも明るく、無邪気で、翔にはとても可愛らしい女の子に見えた。1年生の夏に翔から告白をし、お付き合いしている。後から知った話だが、鈴も翔のことを良く思っていてくれたそうだ。翔達は出会った時からお互い何か見えないもので惹かれあっていた。

学校へ向かう途中、何人ものお坊さんとすれ違う。

「なかなか成仏できない人がたくさんいるんだね‥‥」

鈴が言った

「うん‥‥そうだね‥‥」

未練仏が発見されると、発見した人により市役所へと連絡がいき、観察が始まる。街が未練仏で溢れてしまうので、3ヶ月の猶予をもうけ、それでも変わらずに縛られている人は、強制的に成仏させられてしまう。

この強制成仏は、故人の意思に関係なく無理矢理に成仏させる方法で、強制成仏を受ける人は皆、とても苦しそうに成仏していく。

その為、翔達は日々何人ものお坊さんと街ですれ違う。また、強制成仏をしている姿を見かけることもよくある。

今朝ケヤキの木の下で見かけたあの子も、3ヶ月経ってもあのまま縛られていると、強制成仏をさせられる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る