子犬ちゃんと泥棒猫

ねこじゃ じぇねこ

子犬ちゃんと泥棒猫

 その古代遺跡が、いつから存在しているのか、それを知る者はどこにもいないのだといわれている。

 ただはるか昔のおとぎ話で語られる理想郷とはあの遺跡のことであり、そこには今よりずっと高度な文明があったされていることは、あまりにも有名だった。

 碑文や文書といった確固たる記録もないのに、その話はいつの時代も信じる人が多い。

 何故か。

 それは、古代遺跡に一歩でも足を踏み入れればわかるだろう。


「やれやれ。ずいぶん遠くまで来たもンだね」


 そう言って高台から目を凝らす同行人の背中を、わたしは黙ったまま見つめていた。

 後ろめたさと居たたまれなさの原因は、わたし達の間で派手にぶっ壊れている機械兵のせいでもある。

 現代の技術では再現不可能とされるロストテクノロジーの代物。

 住民を失ったこの古代都市を今も変わらず警備し続けている彼らは、失われた歴史を知る重要な手がかりであることは疑いようがない。

 それでも、調査隊やトレジャーハンターに容赦なくぶっ壊されてしまうのには理由があった。

 彼らはただただ凶暴なのだ。


 遺跡の中央に聳える古城には、唯一無二のお宝がある。

 それは、おとぎ話に出てくる生命の果実というもので、それがおそらく機械兵たちの秘密の鍵となっているだろうとのことだった。

 あるかどうかも分からないそのお宝。

 しかし、本当に見つけたならば、多額の報酬が約束されている。

 そのため、多くの人々が危険を承知で遺跡に足を踏み入れるのだ。


 けれど、その大半は、早々にでっかい夢を諦めてしまうらしい。

 今も遺跡を守っている機械兵たちはそれだけ凶暴で、容赦がない。

 追いかけまわされ、運悪く命を落とした者の成れの果てを目にしていくにつれ、人々は遺跡を去ってこの業界から足を洗ったり、身の丈に合った小遣い稼ぎに落ち着いてしまったりするのだそうだ。


 けれど、わたしは。

 わたしはどうしても、諦められなかった。

 だからこそ、無力感との間に引き裂かれそうになり、居たたまれなさに苛まれてしまう。


「さてと、アンタにこれを訊くのは何度目かねぇ。どうしてもあの古城に行くっていうのかい?」


 そう言って振り返る彼女。

 妖艶なその流し目から逃れるように俯きつつも、わたしはしっかりと頷いた。

 そんなわたしの答えに呆れつつ、彼女はこちらに向き直り、腕を組みながら笑ってみせた。


「まあ、それならそれでいいンだけどね。このリオナ様にかかりゃあ、古城の中に本当に伝説のお宝があるのかどうかも調べられるだろうさぁ。でもねぇ、アンタはどうなんだろうね、子犬ちゃん」

「……ルキア」


 目をそらしたまま、わたしは少しだけ抵抗した。


「わたしの名前はルキアですよ。いつになったら覚えてくれるんですか」

「はは、そりゃあ当然、このアタシが覚える気になったらさ。それまでは、アンタの名前は子犬ちゃんで十分だよ」


 けらけらと笑うリオナを前に、わたしはさらに後ろめたさを覚えてしまった。


 これ以上、言い返せないのにはわけがある。

 彼女とわたしにはそれだけ差があるのだ。


 家族とろくに話し合いもせずに田舎を飛び出したのは、妹の病気をどうにかしたかったからでもある。

 両親も本人もすっかり諦めてしまってはいるが、お金さえあれば何とかなるはず。

 そんな夢を見て、わたしは生命の果実とその報酬の話に手を伸ばしたのだ。

 念入りに準備をして、わざわざ少年のような身なりをして、田舎から都会へ、都会から遺跡へとたどり着いたのは良かったが、そこで待っていたのは恐ろしい機械兵の追跡だった。

 しつこい彼らを前に、あっけなくこの世を去るかと思われたその時、助けてくれたのが彼女──リオナだった。


 稀代の泥棒猫。

 そんな異名を持つという彼女は、わたしと三つほどしか歳も違わないのに、十年ほどは開きのありそうなベテランだった。

 稼いだ額は羨まずにはいられぬほど。

 しかし何より羨ましいのは、この恐ろしい遺跡での、とっさの時の立ち回り具合だった。

 機械兵によってあわやこの世から排除されそうになるわたしの襟首をつかみ、軽い身のこなしで危機から救ってくれた時から、わたしは彼女に感心しっぱなしだった。

 あらゆる形体の機械兵たちの事を知りつくし、どう対処すべきかとっさに判断できるその姿。まさに機知に富んだトレジャーハンターのその姿は、わたしの理想像に違いなかった。

 だが、その実際をこの目で見れば見る程、わたしはどんどん自信を失ってしまったのだ。

 本当に彼女のようになれるのだろうか、と。

 その度に思い出すのが病気に苦しむ妹の姿だった。

 生を諦めかける彼女を励まし続け、両親には偉そうなことまで言って家を飛び出した手前、そう簡単に諦めるという事はしたくなかった。

 そんなわたしの姿を青すぎると呆れつつ、放っておけないとリオナは出会ってからずっと同行しているのだ。


 ただし、無料ではない。

 彼女の手助けは、後払い制でもあった。


「さて、お代の話といたしましょうか」

「今度は何ですか……」

「そうだなぁ。そろそろアンタの事も少しずつ分かって来たことだし」


 と、リオナはそう言うと、壊れた機械兵を音もなく飛び越して、わたしの前へと着地した。泥棒猫の異名通り、猫のような身のこなし。その華麗さに呆気に取られている隙に、彼女はわたしの唇を唐突に奪っていった。


 ──え……。


 唇を解放されても、甘ったるい後味と戸惑いだけが残っている。


「えっ、えっ?」


 混乱するわたしの前で、リオナはニャハハと笑ってみせた。


「なんだい、その顔。もしやファーストキスだったかにゃ。だが、これまで何度も命を救ってやったんだ。このくらい安い、安い」


 安いかどうかは、ぜひともわたしに決めさせていただきたい。

 だが、こんな事で戸惑っていると思われるのは癪だった。なにせ、わたしはトレジャーハンターとして駆け出したのだ。少年のような身なりをすると決めた時から、初心な少女の心なんて捨ててしまったつもりだった。

 だからこそ、わたしはすぐに表情を変え、威風堂々とした振る舞いを意識しながらリオナに言い返したのだった。


「べ、別に、突然でびっくりしただけです。それよりもリオナさん、いいんですか、キスだけで。もしかして、欲求不満なんじゃないですか?」


 思っていた以上に小馬鹿にするような態度になってしまった。そんなわたしの安い挑発に、リオナはすぐさま乗ってきた。


「ほう、だったらどうなンだい? アンタが解消してくれるわけ? まさかねぇ。どう見ても初心な子犬ちゃんがねぇ?」

「リオナさんが求めるのなら、出来ますよ。わたしにだって」


 ムッとして言い返したが最後、リオナは目の色を変えた。


「ふうん、そうかい。じゃ、さっそく今夜、お願いしてみよっかなぁ」


 あれ。


 気づいた時には、そうなっていた。


 そして、運命の夜。

 機械兵の襲撃からも身を隠せそうな狭い隙間に築かれた一夜限りの秘密基地の中で、わたし達は一線を超える事となったのだ。


 異性と付き合うことすら無縁だったわたしが、まさかこういう経験をするなんて。

 酒の力も借りてすっかりその気になったリオナを脱がしながら、わたしは胸の高鳴りを感じていた。

 始めてみた時から思っていたことだけれど、リオナは黙っていれば非常に美しい。

 泥棒猫という異名は他人が押し付けたものだと聞いているが、その顔立ちはたしかに猫のような美麗さがあった。

 体つきも美しい。芸術品のようだ。

 手触りもよく、柔らかく、ずっと触っていたくなる。

 意地になって同意してから気づいたことではあるが、非常に幸いなことに、このお代はわたしにとってもメリットがあった。

 リオナを抱くことが出来る。

 恐らく、これまでも、数多の人間たちに羨望されただろうこの体を、独り占めできる。

 そこにわたしは優越感を抱いてしまったのだ。


「……子犬ちゃんにしてはやるじゃない」


 さんざん楽しみ、事が済んでから、リオナはぽつりとそう言った。

 一つの毛布の中で、肌と肌とを重なり合わせたまま、わたしは小声で答えたのだった。


「ルキア。わたしの名前は、ルキアですよ」


 一晩抱いたくらいで、恋人面できるとはさすがに思ってはいない。

 ただ、翌日も、その翌日も、肌を重ねているうちに、わたしは段々と新たな不満をつのらせていった。

 そろそろ名前で呼んで欲しい。

 子犬ちゃんではなく、ルキア、と。

 これまで助けて貰った分に見合うほどのお代は払えているはずだ。行為の中で、男よりも上手いと、彼女がうっかり漏らした言葉も、意味のない世辞ではないだろう。

 それなのに、熱が冷めてしまえば、わたしはただの子犬ちゃんだ。狼のように荒々しく抱いたとしても、その扱いは変わらなかった。


「一体、いつになったら──」


 いつになったら、名前で呼んでもらえるのだろう。

 そんなボヤキをうっかり口にしてしまい、わたしは慌てて手で口を塞いだ。だが、幸いなことに、すぐそばにいたリオナは、その言葉を違う意味として受け取ったらしい。高台から行く手に聳える古城を眺めながら、彼女は言ったのだった。


「だいぶ近くに見えてきたけど、まだまだだね。そもそもの話だが、近づけたとしても入れるとは限ンないよ。この辺りからは兵長がいるからね」

「兵長?」

「ああ、特殊な機械兵のことさ。アンタを襲った機械兵とは比べ物にならンほど高性能な奴らでね。すっごく危険なンだよ。機械兵たちの襲撃にめげずにトレジャーハンターを続けた奴らだって、奴らと出会って方針を変える事も多い。ちゃンとしたとこのエリート調査団だって、兵長のせいでこの辺りまではなかなか来られないンだってさ」


 そう言って、リオナは周囲を見渡している。

 心なしか、いつもよりも険しい顔をしているように思えた。

 リオナがあんな顔になるくらいってことだ。非常に厄介なことなのだと分かるけれど、だとしても、わたしはやっぱり諦められなかった。


「アンタさぁ、どうしても諦めらンないの? 妹ちゃんの病気ってそれだけ悪いのかい?」

「ええ。遠い異国で治療法が見つかったらしいんです。でも、そこまでの移動費も、入院費も、治療費も、全部集める頃には何十年もかかってしまう。それじゃ駄目なんです。すぐに集めるには、生命の果実に対する報酬くらいないと。だから、本人も家族もすっかり諦めてしまっていて。でも、わたしは諦められなくて……!」

「そうかい。優しい子犬ちゃんなンだね」


 見つめてくるその顔は、いつもよりもだいぶ優しい。だが、わたしはそんなリオナに、呆れながら答えたのだった。


「ルキア。わたしの名前はルキアですよ」

「分かっているさ、子犬ちゃん」


 ニャハハとリオナは笑う。だが、その直後、彼女の目つきが一瞬にして変わった。警戒する猫のように身構えたかと思うと、リオナはわたしに言った。


「屈んで!」


 その言葉に反射的に従うと、頭上を何かがかすめていった。倒れ込むようにして振り返ってみれば、さっきまでわたしが立っていた場所に、見慣れぬ機械兵がいた。いつものタイプよりもだいぶ大きい。豪華な装飾からも、関節の多さからも、そして機能の多さからも、その個体が只者ではないことを示している。

 機械兵はその一つ目をわたしに向けていた。空を切ったのはその腕に生えた斧。もしもリオナがいなかったら、あの斧の餌食となっていただろう。


「こ、これは……」

「噂をしたら影。兵長だよ」


 そう言って、リオナは懐から武器を取り出した。いつも使っている猫じゃらしのようなその武器は、機械兵を混乱させる電気鞭であるらしい。当たり所によっては、機械兵を自爆させることも出来る。そうやって、リオナは何度もこの状況を切り抜けてきた。

 わたしは大人しくリオナの傍まで後退し、様子を窺った。同じような武器は一応、わたしも持っている。フリスビーのような形をしたブーメランで、やはり機械兵に対しての特効がある。けれど、危機一髪を脱したばかりだったからだろう。動揺で体がうまく動かなかった。

 そんなわたしの様子に気づいてか、リオナは落ち着いた声で言った。


「いいかい、子犬ちゃん。アタシがこいつを気絶させる。その隙に、アンタは反対側へ逃げるンだ。アタシの事は振り返っちゃダメだよ。コイツらが入って来られンような狭い場所に飛び込むンだよ」


 その指示に何度も頷くと、リオナはニヤリと笑った。


「よし、いい子だ。じゃ、行くよ」


 リオナの号令と共に、わたしは言われた通りの方向へと逃げ出した。リオナも地を蹴って兵長へと飛び掛かる。威嚇する猫のような怒声に背を向けて、わたしはしばらく走った。だが、そう遠ざからないうちに、背後で悲鳴が上がり、足が止まってしまった。

 振り返るな。そう言われていたのは覚えていた。だが、振り返らざるを得なかった。そしてわたしの目に映り込んだのは、兵長の腕に拘束されているリオナの姿だった。


「く、くそ、コイツ、放せ……放せぇ!」


 リオナは暴れるが、抜け出せない。

 兵長はそんな彼女の顔を覗き込むと、そのまま何処かへ立ち去ろうとし始めた。


 まずい。


 わたしは慌てて引き返した。力不足なのは分かっている。リオナの方がベテランな事も、似たような状況を何度も切り抜けてきただろうことも、分かっている。

 けれど、今は。

 今だけはわたしが行かなくては。


「兵長! 覚悟!」


 走り、近づき、わたしは兵長の行く手を阻む。


「こ、子犬ちゃん!」


 焦るリオナの姿を視線に捉え、わたしはそのまま兵長へと向かっていった。兵長の腕は全部で六本。リオナを拘束する二本の腕の他、斧のついた腕が四本生えている。その腕で今まで何人もの命を伐採してきたのだろう。けれど、覚悟を決めたからだろうか。不思議なくらいこの身は軽かった。

 あっという間に懐に潜り込むと、反射的に、だろうか、リオナを拘束する兵長の二本の腕が緩むのを感じた。そのうちの一本の関節に、懐に忍ばせておいた釘を挟み込むと、兵長は驚いた様子で暴れだした。その緩みで、リオナの体が解放される。地面に落とされた彼女の手を引っ張り、兵長の傍を離れると同時に、わたしはブーメランを兵長の背後に向かって投げた。


 逃げようとするわたし達に気づき、兵長が怒り出す。だが、追いかけようとしたその時、戻ってきたブーメランがその後頭部に勢いよくぶつかった。

 バチッと弾けるような音がして、兵長が前のめりに倒れ込んだ。

 やったのか。兵長はピクリとも動かない。混乱しているだけか、壊れてしまったのか、まだ判別はつかなかった。

 だが、同じように兵長の様子を見ていたリオナは、その目の点滅に気づいて、慌ててわたしの手を強く引っ張った。


「こっち!」


 そう言われ、すぐ体を委ねると、リオナは傍に落ちていた鉄板をとっさに拾った。それを盾に共に後ろへ隠れた直後、激しい音と共に、兵長のいる辺りから眩い光が放射された。

 自爆した。

 強い熱は感じない。だが、この古代遺跡へ踏み込んでしばらく経ったわたしには分かった。直接当たってもすぐには火傷しないあの光は、しかし、呪いの原因となる。呪われてしまえば少しずつ命を蝕まれ、最終的に体が溶けてしまうのだと聞いている。

 美しくも恐ろしいその光が治まると、リオナは鉄板の影から兵長のいたあたりを覗いた。そして、ふうと大きく溜息を吐くと、鉄板を離した。

 カランという音と共に、視界が開ける。兵長はすでにバラバラになってしまっていた。


「危機一髪続きだったねぇ」

「おかげで助かりました」


 もしもリオナがいなかったら、斧で殺されていただろうし、そうでなくとも光線をもろに浴びて呪われていただろう。

 だが、この度のリオナの態度は少し違った。


「こっちの言葉だよ。あーあ、とうとうアンタに助けられちゃうとはね」


 照れ臭そうにそう言って、リオナは伸びをした。

 わたしに背を向け、バラバラになった兵長を確認する。その部品の一つ。肩のあたりに刻まれた古代文字へと目をやると、そのまましゃがみ込んで凝視し始めた。

 リオナはそのままの姿勢で言った。


「機械兵はね、一体、一体、名前があるみたいなんだ。なんて読むのかは分かンないのだけどさ、同じタイプであっても、個々に刻まれた文字が違うンだ」


 そう言って、彼女は文字の書かれた場所を手でなぞった。


「月と光、獣と目玉。そうだね、この文字、見たことがある」

「前に襲ってきた奴だったんですか?」

「そうだね」


 そう言って、リオナは立ち上がると、わたしからも兵長からも目を逸らした。


「今となってはもう、だいぶ前のことなンだけどさ、今日みたいなことが昔もあったンだ。さっきのアンタみたいに、兵長に首を飛ばされそうになって、そこを同行していた先輩が助けてくれた……身代わりになった。さっきのアタシみたいに先輩は連れて行かれちゃってさ、助けようとしたけど、助けらンなかった。必死に追いかけたけど、追いつけなくて、それっきりだ」


 リオナはそう言うと、ようやく振り返ってきた。悲しそうな顔のまま、彼女はわたしに笑みを向けてきた。


「その先輩の名前がさ、ルキアっていうンだよ。それだけじゃない。なんか似てンだよ、アンタ。ベテランと駆けだし。全然立場は違うのにさ、ここぞって時の表情が先輩そっくりで」

「もしかして、リオナさん、その先輩と──」

「ああ、そうさ。恋人だった」


 全て言い割らないうちに、リオナははっきりと認めた。笑みを保てなかったのか、そのまま俯いてしまった。


「だからさ、アタシ、どうしても、アンタのことを名前で呼んでやれなかった」

「そうだったんですね……」


 恋人だったというその人。今も生きているのか、いないのか、それすらも分からないままだという事情。それらを全て隠し、わたしを手助けしていたのかと思うと、見る目が変わってしまう。

 だが、リオナはいつまでもしおらしいままではなかった。腕で目元を拭ってしまうと、振り返ってわたしに言った。


「でも、それも今日までだ。ありがとう、おかげで助かったよ。ルキア」


 やっと名前を呼ばれ、わたしは視界が晴れていくのを感じた。

 喜びとも感動ともつかないその感情。こみ上げてくるそれを抑え込み、わたしはリオナの傍へと寄っていった。


「こちらこそ、ありがとうございます。リオナさん」


 そして、その手を握り締めてから、わたしは彼女に言った。


「ところで、そのリオナさんの恋人って、安否は分からないんですか?」

「ああ、そうだね。だから、お宝と一緒に必死に捜してきた。でも、そろそろ諦めないと。犯人もこうしてバラしちまったわけだし」

「でも、亡くなったとは限らない。そうですよね」

「そうだけど……だったらどうなンだい?」

「捜しましょう。捜し続けましょうよ。もしかしたら、遺跡はこんなに広いんです。まだどこかで生き延びているかもしれない」


 まだ、答えが分からないうちは、希望の全てを捨て去る必要もない。

 そんなわたしに対し、リオナはどんな感情を抱いたのだろう。その目、その表情からは読み取れなかったけれど、彼女は小さく笑ってみせた。


「一緒に捜してくれるって?」

「はい、勿論!」

「そっか。じゃあ、そうしようか」


 そして、あっさりとわたしから離れると、リオナは再び遠くに聳える古城を眺め、小さく言ったのだった。


「アンタの探す、生命の果実のついでにね」

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