告白された男は考える

タヌキング

告白

小生こと藍染 史光(あいぞめ しこう)は、先日クラスメートの奥村 楓(おくむら かえで)さんに告白された。

そんなことは沢山のラブストーリーを見ているであろう読者の皆さんにとっては小事かもしれないが、当人の私にとっては大事である。

自室でコタツの中に入って、教職員から出された宿題にも手を付けず小生は考える。

高校二年生になってのまさかの告白イベント、小生には縁がないモノと考える事すらしていなかったが、よもやこの様に舞い込んで来るとは思わなんだ。

しかし、奥村さんとは半年ほどクラスメートをさせてもらっているが、まともに絡んだことがほとんどない。会話をするにしても業務的な内容である。

それなのに何故小生に告白したのですか?と質問させて貰うと。


「藍染君の横顔が詩人みたいで好きになりました。」


と斜め45度の回答が返って来た。横顔が詩人だなんて一応言われて嬉しいが、もちろん小生は詩歌など書かないし、才能も持ち合わせていない。中学の時に考えた自分の設定資料集などは10冊ほど押し入れの中に隠されているが、いずれ然るべき時に火にくべて供養する予定である。



急な告白に小生は戸惑い「すぐに答えは出せない、一日ほど待ってくれ」と進言した。こういう時、一般の男子というモノは好きでも無い女子に対してすぐにOKを出せるものなのだろうか?もし出せるとしたら余程の百戦錬磨の恋愛遊戯者か、何も考えていない阿呆である。

小生はこの様な難題にぶち当たった時、考えに考え抜いて考え過ぎて損する性格である。これは元来小生が持ち合わせた性分ゆえ変えることが出来ない。変えたいとも思わないが。

今回の場合、期限を設けたので考え過ぎて損することは無いだろうが、選択肢によっては後悔することもあるだろう。向こうが心変わりして本当の詩人と付き合うなんてこともあるかもしれないし、人生何が起こるか分からない。

と、ここでコーヒーでも一すすりしておくか。


”ずずっ”


「うん、今日も美味しい。」


スティックタイプのインスタントコーヒーだが、愛用の黒猫のマグカップで飲むと格別である。コーヒーを飲むと頭の中がスッキリするような気がする。プラシーボ効果も狙っているので、その様な効能が無いなどと言うのだけは今は勘弁して欲しい。



話が脱線してしまったが、大事なことは告白を承諾するか断るかということである。

告白をOKすれば彼女が出来て、断れば彼女は出来ずに孤高の一匹狼を続けることになる。孤高の一匹狼は気取った言い方だが、あまりに気にしないでくれ、自分でも分かっている。

一見すると告白をOKしたようがメリットが多そうだ。高校時代に彼女が居たという経験は人生をより深いモノにするだろうし、そのまま結婚まで行けば幸せな将来が待っているかもしれない。だが、出来て手痛い別れをすればそれがトラウマになり二度と女性と喋れない男になる可能性もある。

大体がメリット、デメリットで女性と付き合うなんて酷い話じゃないだろうか?損得勘定無しで相手のことを想って告白の答えを出す。これが真の男のすべき行動であり、小生が如何に矮小な人間なのだろうと少し凹んだ。



奥村さんの容姿や普段の生活の様子を少し考えてみる。

小柄で眼鏡を掛けていて、どちらかといえば可愛い系の女子。

いつも読書をしている読書家で、教室の金魚に餌あげているとこをよく見かける。

私の知っていることなどこのぐらいのことだ。

しかし、今日接近した時、彼女の胸が意外にも大きかっ・・・。

煩悩退散‼喝っ‼

私は自分の右手で自分の顔面をボコッと殴った。その様な邪な考えが入って来ては本当の告白の答えには辿り着かない。青春で多感な時期だと分かってはいるが、小生よ、今宵はそういうのは無しの方向だ。

あぁ、鼻がズキズキ痛む。




結局どうすれば正解なのだろう?

あーだこーだ考えている間に思考の迷宮に入り込んで出ることすら出来なくなり、頭もフル回転させている反動でズキズキ痛み出してしまった。

とりあえず、もう日付を跨ぎそうなので、そろそろベットに入って横になろう。とても寝れる気はしないけどな。



~次の日の放課後の教室~


いよいよこの時が来てしまった。

小生と奥村さん以外誰も居なくなった夕暮れ時の教室である。帰ってきたウルトラマンが戦えば様になる様なシチュエーションで、小生は考えに考え抜いた答えを奥村さんを目の前にして口にした。


「お、お友達からお願いします。」


結論から言って小生はビビッて段階を一段階だけ上げることにした。まぁ、奥村さんのことを知らないので、これが無難といえば無難であろう。笑いたければ笑えば良い。

だがここで奥村さんがニコッと笑い、とんでもない事を言い出した。


「それは結婚を前提とした友達ということですか?」


結婚を前提とした?・・・いやいや待て待て、何を言うんだこの子は。結婚を前提としては友達から始める意味が無くなる。婚約をする友達なんて聞いたこと無い。


「いや、小生はアナタのことを知りたいと思ったので、まずは友達からと・・・。」


「まどろっこしいですわ。」


小生が言い終わる前に、ピシャリとそう言い放つ奥村さん。その瞳には明確な意思が感じられた。


「私はアナタと結婚して、一緒にコタツに入ったアナタの横顔を見ながら紅茶を飲むと決めていますの。」


困った。勝手に未来を決められている。

奥村さんは奥手なタイプの女性かと思っていたが、意外とグイグイ来るタイプ、俗に言う肉食系女子であったか。

小生は絶対草食系なので、弱肉強食の食物連鎖の掟に従うしかあるまい。


「・・・分かりました。結婚を前提とした友達で宜しくお願いします。」


結局のところ思考したことは全て無駄だった。

押しの強い彼女、押しに弱い小生、役者がこうも上手く揃ってしまえば結果は火を見るよりも明らかだった。とんだ茶番である。


「まぁ、嬉しい。お慕い申しております♪」


トコトコと小生に駆け寄って来て、小生の胸に右頬を摺り寄せてくる奥村さん。

気恥ずかしいが存外悪く無いから注意することもままならない。

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告白された男は考える タヌキング @kibamusi

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