お飾りの妻、と言われたので一発殴ることにしました
陰茸
序章
第1話
結婚式が終わってから一体何時間たっただろうか。
ふと、私、リズリアはそんな思いを抱く。
私がいるのは、綺麗な部屋の中だった。
その中で一人、私はぽつんと後から来ると言ったまま、現れない夫を待っていた。
「……初夜で一人てどういうことよ」
そう、今は本来であれば私と夫の初夜となるはずだった。
私の実家である伯爵家と、侯爵家当主である夫との結婚、それは突然決まったものだった。
決まってから実行されるまで、一ヶ月もなかったと聞いている。
それどころか、これを逃せば私に婚約の機会がないと言っていた父は、結婚式が始まるぎりぎりまで私に婚約を知らせなかった。
そのせいで私に至っては、この結婚を知ったのが今日である。
「よくも騙したわね、あのくそおやじ……。何が、新しい商売を私に任せるよ……! 帰ったら、残り少ない毛根を引き抜いてやる……!」
一人であることを良いことに私は歯噛みし、脳裏に浮かぶ父へと恨み言を口にする。
「こんな結婚、前代未聞でしょうに……」
そう言いながらも、私は理解していた。
私がそうであるように、夫もまた突然の結婚だったのだろうと言うことを。
今回の一件、間違いなく私の婚期を心配した父の暴走で間違いないだろう。
それで押し切られた夫が何か複雑な思いを抱いているのは容易に想像できることだから。
特に、結婚式でみた夫は中々のイケメンだった。
引く手あまたなところ、私をねじ込まれたのだ。
文句を言いたい気持ちはよく分かる。
「……とは言っても、ここまで待たせるのは失礼とは思わないのかしら」
そう私は小さく呟く。
こちらへと向かってくる足音が響いたのはそんな時だった。
ベッドに寝込んだ状態でその足音を聞いた私は反射的に飛び上がって居住まいを直す。
そして素早く衣服を直し。
がちゃん、と音がなって扉が開いたのは次の瞬間のことだった。
まさかノックもなしに扉が開くなど思ってもいなかった私は、居住まいを正した姿勢のまま固まる。
「ふん、態度だけは愁傷なようだな」
あけ開かれた扉から見えるのは、人間離れした綺麗な顔をした男性。
私の夫、カズタリア・アズリスクがそこに立っていた。
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