第35話 3人目の債務者 その詳細

 3人目の債務者シゲコは……


「再婚したら、夫が払ってくれるはずです」


 元資産家の嫁だった女で。

 借金が12万ゴルドあった。


 見た目はそんなに悪くない。

 30代の女。

 かつては資産家と結婚できただけはある。



 その離婚原因が、家のお金の使い込み。

 役者に入れあげて、貢ぎまくったら


 家の金を私物化するとは何事だ!?

 ウチの金はお前のお小遣いじゃない!


 旦那さんにバレて。

 その後、けち臭いだの器が小さいだのギャンギャン騒いでいたら。


 ……離婚された。

 旦那さん、腕利きの弁護士を立てて離婚に臨んだので


 この債務者、共有財産の部分は全額慰謝料で消されて。

 借金だけ持った状態で、家を叩き出された……らしい。


 このくだりは、債務者は涙を浮かべながら語ってて。


 ……うん。死ね。


 同情する顔で聞いてたけど、内心そう思っていた。

 全部てめえが悪いんじゃねぇか。


 しかも借金返済を再婚に賭けてるとか何なんだ?


 クズすぎやがな。


 ……で、借金のカタが8才の娘。

 元旦那の資産家、娘は嫁に出すときに金が掛かるから要らんと言い、嫁を叩き出すときに一緒に追い出したらしく。


 まあ、これと結婚するだけあって、大概よな。

 

 一応理由として「離婚手続きのときに、こいつが母親を追い出すことに反対したのが気に喰わん」ってのをあげてたようだけどさ。


「そうは言いましても、なかなか12万ゴルドなんて、一般的な男性の2倍の年収に匹敵する借金を快く払ってくれる男性と結婚するのは難しいですよ?」


「私が結婚できないって言うの!? 馬鹿にしないで!」


 僕が冷静に現実を見ろと諭しても、脊髄反射でクソ意見を飛ばしてくる。

 どうしようもねぇなぁ。


(……先生。どうするんです? このヒトの婚活の手助けするんですか?)


(まさか)


 ネコがコソコソと僕にそう囁いてくるので。

 僕は首を横に振って返答した。


 んなわけねぇだろ。

 害悪じゃん。


 もはや洗脳でも使わない限り、この女が資産家と結婚できる未来はない。

 なんでそんな大罪を犯さないといけないんだ?

 そんな、一片の正義も無いクソ行為を。


(じゃあどうするんですか?)


(こうする)


 僕は同情した顔のまま


「あなたに足りないのは運気の無さだと思うんです」


 この手の奴には、お前が悪い、お前が変われは禁句。

 反対に、周りが悪い、お前は一切悪く無いは特攻の効果がある。


 だって原因の他責は決定事項で。

 そこを肯定してもらい、同情してもらいたいだけなんだもんな。


「運気が……?」


 すると案の定。

 道が開けた、みたいな表情で僕の話を聞く。


 ちょろいな。


 そして続ける。


「運気を上げるまじないをしてみましょうか」


 そういうわけで。

 僕は例によって墨で女の腕にこう書いた。魔法語で。


 エアイー(自己)グラトー(子供)デンジ(変化)アダリー(大人)


 現代語訳で「自分の子供を大人にする」

 デンジは変化の他に、成長と発展という意味もあるんだよね。

 何かが変わることを全部「デンジ」って言うんだね。


 そして続けて


「コーツ シハト ナイル ディセルヴォ」


 法力魔法第5位階の魔法「使命付与」

 自分の命に関わらず、かつ実現可能な使命をひとつ、対象に付与する魔法だ。

 効果が発現すると、使命実現に積極的になり、かつ使命に反する行為にものすごい拒否感を感じるようになる。


 ……これで、この女は「我が子を大人にまで成長させる」ことが使命になった。

 まずは第一段階だ……。

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