ファントムフィクサー  【現代日本可来山市 宇天町の少年魔道士達】

倉村 観

第1話 フィクサー


2026年7月 22日

 

「いや…誤解しないでくれ。


はじめから全部うまく行くつもりだったさ。」


少年、六道リクドウ 宗介ソウスケは、窓の外を眺めながら、呟いた。


その目は外の景色を反射して、普段から、人ならざる神秘的な翠色のアイカラーをより美しく輝かせていた。


話し相手は、布団を被ったまま、動かないそれでもお構い無しに、ソウスケは話を続ける。


「いやぁ 生徒会長♡ 仕方ないことさぁ、無知ってのは。 いいかい? 君はずっと水面下で蠢き続ける深淵から、目を逸らして生きていた。でもね僕たちの世界は結構前から、時代が変わったんだ。 」




「少し前から、急激に現れた子供たち。異能。それは魔導士。君もホントはおぼえているはずさ、 それは君のように弱っちい者もいれば、オレたちのように、渦巻く力の奔流を宿し振るう化け物もいる。 でもオレたちは……いや違う彼らは、ずっと寄り添い潜んできた。」


「この、隆起した町。 宇天町でね……。」


「だが……君の愚行がきっかけで、ようやく『 押さえつけられた時間』が動き出す。かつて、全てを掌握していた暴力を新たなる 『金』という力が支配した時のように、とうに金を『 異能』 いや『 魔法』という新しい暴力が、支配する。」



「この日本が交錯する混沌の中で、俺たちの時代が、……ついに始まるんだ。」







━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 オレは彼女との会話を終えると、スタッフルームを後にした。


ここは和菓子を専門に取り扱っている喫茶店


友達が、経営しているなじみのこの喫茶店は、今日オレだけの貸し切りだ。


 ここの店内は一部の区画を除いて、非常にセンスのいい暖色系でモダンな内装で、店内には普段からオレたちの好きなジャズアーティストのメドレーが流れ続けていた。


 オレ 『六道リクドウ 宗介ソウスケ』は、自身が通っている中学校の学生服、その上着を脱いで、注文した抹茶ラテを楽しみながら、あるものを見ていた。


吊るされた女。


先程オレが会話していた女と瓜二つの外見をもつ女だ。


頭には布袋を被せられ、 下着姿で露出した繭のように透明色に近い白い肌には、至る所に、生々しく、痛々しい傷がつけられていた。 いや…つけられていたというのは、正しくない、その傷のほぼ全ては、『オレがつけたものなのだから』。


この部屋と女のいる部屋は壁やドアなども、なく、実質一つの部屋のように、つながっている、しかし明確にデザインが女のいる部屋は、モダンな作りではなく、まるで純白の実験施設のようで


吊り下げるために縛られた手には、もう殆ど力が入っていなかったが、反対に拘束具を付けてなくて、地面にもついていない脚は、さっきまで、バタバタと、抵抗のような行動をしていた。

 布袋その中も余計な口で喋らないように、猿轡をしてあるが、それでもこいつは、声にならない煩いうめき声を上げていた。


「おいおい…うるせぇなぁ!!せっかくお気に入りのジャズを流しているのに…そいつの音痴な声のせいで台無しじゃないか!!」


 奥のスタッフルームから、そう言って金髪の男が現れた。


 この男の名は『万寿まんじゅう 田部太郎たべたろう』年は見た目通りオレと同じの13歳の少年。 だが、正真正銘この喫茶店、『和菓子処わがしどころクロユリ』の店長だ。


「こんな面倒を頼んですまない。」


「全くだ…!うちはケバブ屋じゃないんだぞ…!!それにこいつ!!俺達と同い年の女のくせに出るとこだけ出てるモデルみたいな体系の高身長のせいでホント!吊り下げんの大変だったんだから…!!」


オレの礼に対して、タベタロウは、皮肉めいた冗談とわざとらしい下品な文句でで返してきた。 あえて、気を使わせ続けないよう、わだかまりを持ち越さないために、こういう返しをするのは、ムードメーカーらしい、彼の気の利かせ方の常套手段だ。


「それでぇ、この、スケベな体つきしてるケバブどうすんだ…? 拷問するか…? 今すぐ…熱々のトングならあるぜ、あと針も。」


「何も…しねぇよ…だが…このまま自由は与えない。」


 相変わらず、心にも無い下品でふざけた物言いをするタベタロウに、オレは真剣な答えを返した。それに対して、タベタロウはコミカルな動きを一旦やめて、キョトンとした顔でオレの方を見た。


「なぜ…?」



「信用できなくなった。 だから赦してない。 それだけ…。」


ただ真剣にそう呟くオレを見て、タベタロウは『またか…。』などと言いたげな顔で口を開いた。


「んぁあ…お前みたいに優しすぎて人が良すぎるやつは…そうなるわな…そいつに何回裏切られたんだ?」


「煽ってる?」


オレは少しムッとして、そう言い返した。この説教をコイツから食らうのもこれで何回目だろうか…。


「んや? ホントのことだろう…? それでなにか失ったのか? コイツに奪われたのか?」


「まだ…。何も…。」


オレが彼の問い詰めに、うつむきながら答えると、彼は少し安堵した表情を浮かべて口を開いた。


「護りきったのか…。流石だな…。」


「え? 優しいな。」


彼の意外な言葉に、オレは思わず声を上げた。それに対して、タベタロウは再び口を開いた。


「今のは…オレの言葉じゃねぇ、つい…きっと逝っちまった『BOSS』ならそう言うと思っちまってな…。 6年もたったのに俺はまだ…」


「俺もだよ。」


悲しい声を隠せないタベタロウに対して、俺もまた同調した。 ただでさえ重苦しい空気が更に悪化したのをタベタロウは深刻に感じ、話題を切り上げようと、声をあげた。


「ま…まぁ…水臭い話はお茶啜りながらしようや! ほらお客様、そこの席で少々お待ちください…!」


タベタロウはコミカルに、俺をテーブル席に誘うと、自分はケーキのショーケースが目立つ調理場に立って、紅茶を沸かした。


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