2ページ サンタさんからのプレゼント?

 昨日の夜のことを、僕はあまりよく覚えていない。

 12月24日、今日くらいは夜更かししてやろうと起きて居たら何らかの拍子に意識が途切れた。チラリと見えた時計は0時を回ってたと思う。

 何で気絶したのか覚えてないけど、多分眠気と栄養失調だろう。夜更かしはいけないと、サンタさんが僕を叱ったに違いない。

 枕の横のくつしたを見てみるけど、プレゼントは無い。期待はして居なかったけど、少しばかりショックだったな、なんて。


「おはよう」

 僕はそうして声を掛けたのは、唯一の味方である天井の人みたいなシミ。僕は勝手にシミーって呼んでいる。

 多分ねずみとかのおしっこで出来たものなんだろうけど、この場合僕の友達はネズミなんだろうか? それともおしっこなんだろうか?

 

 くだらない想像をめぐらせながら、返ってこない返事に複雑な気持ちを——


『おはようぼく! 良い朝だね!』

「返ってきた!?」


 シミーが遂に自我を持ったのかと思ったが、違う。シミーとの間に割って入る様にして浮かぶが話し掛けて来たのだ。



 ん?



『どうしたんだい、ぼく?』

「え、本が喋ってる? ……いやいやいや、あり得ない。絶対にあり得ないっ!」

『昨日も聞いたよ、それ』

「これは夢だ、そうに違いない。早く起きるんだ僕!!!」

『えーい!』

「いたっ!?」


 この人、攻撃力が一番高い本の角で殴って来た。人として最低だ! あ、いや、人じゃなくて本か……。

 ……だからと言って罪は変わらないけど!


「あれ、痛い……? つまり現実!?」

『ぼくの判断基準が漫画過ぎる』

「……あのさ、ずっと気になってるんだけど、って呼ばれ方する年齢じゃないと思うんだ」

『いいや、君はさ。まあ嫌なら春馬くんって呼ぶけど』

「?」

『とりあえず、現状を受け入れてくれたって事でいいかな?』

「え? いや全然? そもそも何で君は浮いてるの? 何で君は喋ってるの?」

『それは全部、魔法のお陰さ!』

「それは……、そうか」


 これがもし現実なら、夢じゃ無いなら、目の前の事実を否定する事は出来ない。

 僕は希望を信じない、だからこそ、あり得ない過程を立てるつもりもない。

 今ここにあるのは、殴られて痛かったと云う、どうしようもない事実なんだ。


 


 魔法以外の何物でもないを、夢以外で否定する方法なんて何もない。


「そのさ、僕にも魔法とか使えたりする?」

 

 ……いや、嘘だ。そんな難しく考えてない。

 現実だとか夢だとか、事実だとか否定だとか、そんな事自分の本心をカッコつけて言語化してるだけ。

 

『勿論! その為の僕さ!』


 僕は興奮してるんだ。

 消極的な生き方? 違う。

 可哀想な自分に酔っているだけだ。

 下らない生き方の為に奇跡を手放すなんて、そんな勿体無いことはしたくない。


「僕に——ぼくに魔法を教えて!!」

『その言葉を待っていたよ。任せたまえ、君の師匠として、最高の夢を見せてあげよう!』

「お願いします、師匠!」

『その呼び方、良いね。それじゃあ早速! 3ページ目を開いて、僕から君へ贈る、最初のプレゼントだ』


 僕は、宙へ浮かぶ本へ手を伸ばし、掴む。

 六法全書見たいな分厚さをしたサイコロ本は、不思議と軽くてページが開きやすかった。

 まるで僕の為に作られたみたいに。


『【炎】これが君が初めて覚える魔法。効果は使ってみてのお楽しみ! 使用方法は手をかざして魔法の名称を読み上げるだけ!』

「師匠、この文字は何?」

『これは魔導文字って言うんだけど、理解しなくても魔法は使えるから大丈夫! 今度教えてあげよう!』


 手をかざす。

 そこには——そう、リボンに巻かれたプレゼントがあって、僕はそのそれをワクワクしながら解くんだ。多少解きづらいだけじゃこの気分を下げることは出来ない。

 そんな風にして、僕はその名を読み上げる。

 

「【炎】」


 小さな火種が手のひらに出来て、それが花火の様にバァっと広がり大きくなる。

 その炎は何よりも綺麗で、荒々しくて、それでいて温もりを感じる。


 とても炎。

 

 なのに何故だろう。

 胸が苦し——


「——ぁ」


 




 体中に激痛が走り、

 僕の意識は再び途切れた。

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