異世界(1)


 翌日の朝、身体の調子もすっかり取り戻した式隆は現状把握のために動き出した。何はともあれ、まずは情報収集である。結局ここはどこなのだろう。



「ここはアレリヤ大陸の南東部、ダステ国の辺境にある街、ルソです」


「なんて?」



 見たところジールは誠実に答えている。聞き間違いではないようだし、悪質ないたずらの類でもなさそうである。じわじわとイヤな実感が迫ってくる感覚がある。


 聞いたことのない大陸、国、地名。これらが嘘ではないとするなら、ここは…。



「異世界…か」



 …認めたくねぇ~。てゆーか『異世界モノ』ってのが異常なまでに流行ったのってもうずいぶん昔だろ。正直ジャンルとして知ってはいるけど、具体的にどういうものかは把握してない。そういえばヒデヤがやたらハマってた様な…。


 そこまで考えて直面する、当たり前に思いつく問題。すなわち、



 (どうやって帰ればいいの!?)



 そもそもここにたどり着いた経緯すらわからない。簡略化すれば、気絶→目覚める→「ここはどこ?」で説明できてしまう。途方に暮れるしかなかった。しかしそれでは何も始まらない。もっとこの世界を知る必要がある。少し考えてから、改めてジールとの会話に臨む。



「ジールさん」


「どうしました?」


「実は俺…記憶が曖昧になっているみたいでして…」



 そう。こんな状況に陥った時のためのテンプレート(?)、記憶喪失である。未だによくわかっていないが、今自分が世話になっているこの家の人々には物凄く感謝されている。これを利用しない手はない。



「なんですって!? それは大変だ、医者を……え、いらない? しばらくウチに? はい、それはもちろん構いませんが…」



 目論見通りの反応を引き出し、式隆は内心でほくそ笑んだ。必要な情報を集めるまで、もう少しここにご厄介になるとしよう。



「てゆーかなんで言葉分かるんやろ。日本語も通じるし、なんなら字も読める。変なの」



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