私の夢は「負けヒロイン」です!

鉄分

第1話 青春のはじまり

始まりは中学2年生の時だった……



『ほら春!しゃきっとしろ!』


『いったぁ!??なんで叩くの!?』


『だって……告白してくるんでしょ?』


『それは………そうだけど…』


『じゃあこれは景気付け!!行ってこい!』


『……ありがと』





『頑張りなよ……ホントにさ…』

『私の分まで………ほんとに……ッ…幸せになんないと………私が奪っちゃうんだから…』





ずっと読んでいたラブコメ漫画の最終巻。

主人公の幼なじみが恋のライバルである転校生に発破をかけるシーン。なんとも美しい泣き顔が見開きで描かれており、気合いの入りようがうかがえる。




そして中2の頃の私はそれを見て思った。






(私もこんな風に泣きたい!!!)



……と






そして現在高校2年生。



「おっはよー!」


今日も今日とて元気な挨拶をしながら教室に入る。


「今日も元気だね」


「それが取り柄なので!」


高校1年生の頃からの友達のマキちゃんと話しながらその後ろの席に座る。


「それで?今日こそは転校生とぶつかった?」


「うーーーん……流石に………食パン咥えてたんだけどなぁ……」


「……やっぱ古くない?」


「いやいやいや王道こそ正義だよ」




中2の頃に想い描いた夢の光景……



恋のライバルの背中をひっぱたいて負け惜しみを言いながら泣く……



この夢を叶えるために私は努力を惜しまなかった。漫画本を読み漁るだけだった暗い生活をやめ、残りの中学生活を全てつぎ込んで理想ヒロイン像になるためひたすらに努力した。



まずはコミュ力!あの漫画のヒロインみたいに元気じゃないとダメだからね!失恋した時に号泣しちゃうっていうギャップも欲しい!



そしてスタイル!しっかりと毎日運動して健康的な体型を維持!細すぎず太すぎず!絶妙なバランスが大事!


さらにはヘアースタイル!ここもあのヒロインみたいにショートボブにしてる!かわいい!




でも……どうしても、私1人では手に入らなかったものがある。


それは……



「空から幼なじみが降ってこないかなぁ…」


「まぁ無理だろうね」



そう!主人公の男子!!


少しダウナー気質で一匹狼を気取ってる風の隠れイケメン!!部活には入ってないけど運動は出来る!でも勉強は出来ない!!!そんな主人公みたいな男の子が欲しい!


……だけど現実はそう甘くなくて、私には隣の家の幼なじみも、中学で部活が一緒だった男の子も、実は血の繋がってない兄弟もいない。



だからなんとか出会おうと努力をしているのだが……




「やっぱバイトかなぁ……ファミレスぅ?」


「……ほんっとに変な努力してんね」


「だって!なんてったって私の夢だからね!」


「さいですか」


マキちゃんは私の夢を知っている。初めて話した時は爆笑されたが、その後に「応援してる」って励ましてくれた。


私にはもったいない親友だ………親友……


「…………親友だよね?」


「なにさいきなり…私はそう思ってるけど?」


「そっか!私も!」


「………やっぱなし」


マキちゃんはそう言うと顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。


「え~照れてるの~?やだな~」


「照れてないし…あぁもうこっち見んな…」


普段は優しいんだけど、照れると口調が荒くなります。かわいいです。



「おーいホームルーム始めっぞ~」


その後もマキちゃんとお話してると担任の先生が早めに教室にやってきた。


「先生。まだホームルームの時間までは少々あるように思えますが……」


クラスの学級委員でもある天城あまぎさんが先生に尋ねた。


天城さんは黒髪ロングの美人な女の子。

ちょっとお堅いがそれがまた良い!!


「あー…今日は転校生を紹介したくてな」


「転校生?」

「転校生!?」


困惑する天城さんと同時に私も席を立ち、反応してしまった。お互いに目が合い、少し気まずくなる。


「どうした日野ひの……まぁいい。入ってきてくれ」



先生に合図され、教室に入ってきたのは男子だった。


背がそこそこ高くて、ちゃんと清潔感があって、でもどこかつまんなそうな目をしてて…


「ねぇねぇねぇマキちゃん…まさか……!」


「……いや流石に」


その男の子は先生の隣に立ち、正面を向いた。


すると次の瞬間……


「なっ!?」

「あぁ!?」


天城さんと目を合わせて驚きの声を上げた!



「ねぇねぇねぇマキちゃん!」


「ウッソでしょ……」


そして天城さんと転校生くんはお互いを指差すと、信じられないといった顔で同時に叫んだ。


「お前ッ……なんでここに!?」

「それはこっちの台詞です!!」



「やっぱりキミって!!!」



そして私もおもいっきり叫んだ。




「……え?誰?」

「……どうしたんですか日野さん?」


「はぁ…………このバカ……」


テンションが上がりすぎた結果、2人の感動?の再開に割り込んでしまった。

2人からは変な目で見られ、マキちゃんからも呆れられ、頭を抱えられた。


「あ、あはは…すいませんお邪魔しました…どうぞ続けて………」





その後、転校生くんは天城さんの隣の席へと案内され、お互いにずっとにらみ合っていた。



(きたきたきたきたぁ!!!)


その間、私は心の中で狂喜乱舞していた。

転校生くんの自己紹介なんて全く聞かず、これから起こるであろう青春を妄想しまくりだ。


(いつかなぁ……やっぱり修学旅行かなぁ!でもでも文化祭も捨てがたいよねぇ!!)



「えへへへへ………」


「バカかコイツ……」



マキちゃんが何か悪口を言ったような気がしたが気にしない。なんてったって今日は私の青春の第1話だからね!!





今日から始まるんだ……!


私が最高の負けヒロインになるまでの物語が!

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