第2話 ガバガバっつったっていくらなんでもそんな

「では……よい来世を」



 はい、と言うわけで転生しました。

 初期リスポーン位置は人里の近くの森の中。いきなり街中で人間が現れたら怪しまれること間違いなしだからな。それは避けたい。


 そしてここから何をするかといえば、初期装備と持ち物の確認。

 この世界にはステータスという概念がないらしいので、本来ならステータスを見るという行為はできない。だが自称神曰く「転生者は全員ステータスが閲覧できるよう設定してある」そうだ。

 あると便利なステータス、俺は「特別に」他の転生者含めた他人のステータスも簡単に閲覧できる設定にしてもらえた。こういう手の展開を嫌っているのは確かだが、よく考えなくても俺の力量と他者の力量を比較することはどう立ち回るかに関係してくる。バトルはできるだけ避けたいが、こんな異世界にいる以上は何があるかわからないし。立ち入る場所を選ぶにも自分がどれくらいの力を持っているかくらいはっきり理解しとかないと。


 あと一番でかいのが転生者を発見しやすくなるのはとても役立つスキルだったということだ。あの自称神はガバもガバだったため、誰をいつどうやって何に転生させたのかまったく記録していないらしいし、別に全知全能ですべての記録を記憶しているわけでもない。なので俺が一々動き回って転生者を見つけなければお話にならないそうだ。

 あいつのことを考えれば考えるほど、今までに味わったことのない衝動が湧き出てくるのなんでかな。

 これが……殺意……?


「ステータス……」


 唱える式のシステムはやめろと言ったのにこれ以外の方法がないらしいので、仕方なく妥協している次第である。クソが。羞恥とかいう以前にラノベっぽい展開がもう普通に無理。

 なんというか、中にも良作はあるのに、大多数の嫌悪感を催すような主人公のせいでもう見る気が失せたというか……昔は違ったが今はそうだ。Web小説みたいな設定ですでに舐め腐られてる感じがするのに、更にここで使い古された濃厚な設定を天丼してくるとか。


「エッなんだこれ」


 ところで、俺の考えるステータスというものは、「HPやMPなどの項目とその数値が並べてあるもの」だ。

 そのため、俺の考えている「ステータス」には、この表示は当てはまらないんじゃないかと思う。



『なまえ  くろす えいじ

 せいかく うたぐりぶかい

 とくべつなあかし てんせいしゃ・かみのしと


 たいりょく:それなり

 まじっくぽいんと:ざこ

 ぶつりこうげき:いっぱんじん

 まほうこうげき:むり

 ぼうぎょ:くそざこ

 ちのう:へいきんてき


 とくぎ

 ・じゅうばこのすみをつつく

 ・にんげんかんさつ

 ・じょうほうぶんせき

 ・こみゅにけーしょん』


「は??????」


 二度見して三度見して変な声が出た。いや本当になんなんだこれ。


 俺はソッと親指を立て、小指を立て、ひとさし指・中指・薬指を折る。手を耳のそばにやる。

 するとどこからともなく発信音が鳴り響き、場にそぐわない響きがこだまする。なんでこんな電話を表す記号を作っているのかといえば、自称神に連絡する手段がこんなクソダサハンドサインしかないからだ。


「はいもしもし、お電話ありがとうございます、こちら世界管轄本部です」

「あのぉ……さきほど転生させられたばかりの黒須と申しますけどぉ……」

「あれっなにか不備でもございましたか!?」


 おっこれ電話口に出たのはさっきの自称神だな。最高権力者自らがわざわざ出張ってくるとはなかなか関心関心。お前に直接連絡する手段をくれって言ったのは俺なので当然だろうけど。


「いやその……『ステータス』がこれってか?ふざけんなよ馬鹿。てめぇよっぽど死にてぇんだな?」

「ステータス?ステータスに問題が!?」

「問題が!?じゃねえんだよお前さぁ、ステータスの意味知ってる?ステータスってのはなあ、客観的な数値に置き換えていろんな人と自分の実力を比べたり、集団の中でどのあたりに自分の実力が位置するかを測ったりする目安なんだよ。それがこのクッソ抽象的な単語だぁ?しかもオールひらがな。読みづらいったらないわ。マジで覚えとけよ、俺、お前に死なせてもらう前に腹に一発蹴りでも入れっからな」

「ごっごめんなさいぃぃいでも仕方ないんです!この世界の管理ぜんぶ私がやってるんですよ!?もう忙しくて忙しくて……」


 なんと自称神はワンオペでこの世界を管理しているのだとか。ふぅんお気の毒に。まぁ俺は知ったこっちゃないけど。こいつの自業自得だからな。信仰心集めて存在し続ける道を選んだのはこいつの意志だし俺を転生させようとして呼んだのもこいつだし。


「でもそれ言い訳だろ?正当な理由にはならねぇって」

「いや!そもそもステータスだって、転生者の皆さまのご希望があったから追加しただけで……この世界の本来の仕様ではないといいますか……」

「チッ……早めに修正しとけよ。せめて十段階評価程度の精度でいいからやれ」

「そんな、私他にもやることが……」

「しらねぇ~~~~~~~バーカ!!!!!!!」


 そう言って一方的に通信をぶち切ってやった。時々、「ガキっぽい」とか「やりすぎじゃね?」とささやく良心がなくもないが俺は被害者。当然の権利を主張しているだけである。実質的に自分の意志でもないのに異世界転生させられたならこれくらい貰えなきゃなぁ?割に合わねえよなぁ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る