無茶苦茶な自称神に異世界転生させられてしまった俺、異世界でやらかしまくったなろう系主人公の尻拭いをする羽目に~本当そういうの求めてないしこれは前フリでもないからマジでやめろ~

ぬるめのにこごり

第1話 多分こいつクズだと思うんですけど(名推理)

「えー、というわけで、あなたには死後、転生者を調整する仕事に従事してもらいます!」

「は?(憤怒)」


 オーケーオーケー、労基上等だ。目の前のクソ野郎をぶっ飛ばす権利はある。なぜならweb小説で100億回くらい見た展開が今現在まさに自分の身に起こっているのだ。今の説明からすると俺は死んでいる=法律は自分を縛らない。

 なので自らの良心に従いこいつをぶっ飛ばす。


「うわっ何するんですか!?」

「自分の頭で理由を考えてください。それぐらい当然だよなぁ?」

「怖っ」


 殴ろうとしたら拳が空を切る。避けられたっぽい。てか動ききっしょ。めちゃくちゃグロテスクな外見をしているので、余計にきしょい。

 だがこんな謎の生命体が神だとは信じがたい。こいつの言い分を信じるならそうらしいけども、古事記にもこんなグロい神出てこねえぞ。スライムに何混ぜたんだって言いたくなるやべえ外見。


「とにかく話し合いましょう!」

「無理。可及的速やかに消えてくれたら嬉しいよ」

「あれおかしいな、もしかして私蛮族でも召喚しちゃいました?」

「こんな状況に置かれたら誰だってそうなるわ」


 神と名乗る物体がのたまうには、俺は死んだらしい。んで、自分のお使いをこなしてもらうために選んだ人間をこの空間に呼んだという。

 あと主にこいつがこちらの世界で死んだ人間をちょくちょく転生させたおかげで世界がめちゃくちゃに引っ掻き回されて大変なことになっている(意訳)そうなので、それを俺に直して欲しいとかなんとか。

 まぁ、世界がいっぱいありますとかそういう概念はもうラノベで履修済みなので、驚かない。しかしとても感情は別だ、めっちゃ苛立つ。


「普通に断るんだが」

「そんなこと言わないでくださいよぉ!?」

「それ俺の台詞だって」


 自業自得以上の言葉が考えつかなかった。とんだクソじゃん。


「そもそもなんでそんなにこっちの世界の人間をお前んところの管轄の世界に転生させたんだよ?」


 この世界はどっかのラノベで見たことがあるように、神が多数おり、管轄の世界がそれぞれ決まっているらしい。めんどくせえ世界だな。だがあろうもことかこのクソ野郎は、こっちがその事実を知ってる前提で話進めようとした。

 話の途中で気づいて良かったわ。なので当たり前だが俺はちゃんと説明しろって口出ししたのだった。ラノベ熟読者ならともかく初見の奴はわかんねえよ。web小説投稿サイトの警備が趣味だった俺でも細部までは流石にわかんなかったし。


「そりゃあ色々あって……」

「いやお前んところの問題はお前んところで解決すればいい話じゃね?よそを巻き込むのやめろよ」

「しょうがないじゃないですか!」

「何が」


 問えば、自称神は言い訳し始めた。


「私だって好きでこの世界を管理してるわけじゃないんですぅ……でもこうでもしないと神である以上は消滅しちゃうんですよ!!」

「別に消滅すればいいだろ。俺の知ったこっちゃねえよ」

「酷い!!?」


 説明を聞くに、神というのは知的生命体の信仰心を糧に存在しているので、なににも信じられなくなった神は消滅するらしい。こいつの知る神のほとんどは管理する世界の中で信仰心を集めて存在しているという。

 神ですら存在する欲求には抗えないのな。新発見。ただしそれよかとんでもない貧乏くじ引かされたことに怒りで震えて涙が以下略。

 ちなみにこいつ自身が自分で自分の尻拭いを、もとい転生者をどうにかしないのかと訊けば……神が直接世界に干渉しようとすれば世界のエネルギー均衡が崩れて法則がおかしくなるとか言われた。……これもうわかんねぇな。


「つうかそもそもこの世界で生じたほころびを解決するために、別世界から死んだ人間もらってきてお使い頼むとかどうなんだよ」

「いえそれが……」


 お前が管理してる世界の人間で解決した方が自然だし安上がりだろと言いたくなるが、神託を下したり預言者を仕立て上げたりするのにはだいぶコストがかかる。

それだったら、この世界と比較的繋がりが深い地球から死んだ人間を引っ張ってきた方がまだかかる労力が少ない。そのうえ地球の人間――特にとある国の若年層がこの手の展開に理解が深く、簡単に自分の言うことを聞いてくれる事実を知った。んで、結果的に異世界産の人間を使ったほうがコスパが良い、というのが自称神談。


 本当にどんな世界観だよ。異世界転生に作者の都合以外はないと思ってたけど、現実だとそんな風に理由付けされることあんのな。


「私の存在がかかってるんだから許してください!!」

「だからって言って自分の都合を厚かましく押し付けるのは違うんじゃね?俺だってお前が申し訳なさそうにしてたらもうちっと態度が違っただろうけどさ。当のお前がそんなんだから、敬意のかけらも払えねえよ」


 うごうごと震えてどこからか発声する自称神。こんな冒涜的なスライムが存在するとは俺も今初めて知った。


「あっ」

「つ、次はなんですか……?」

「……なあお前さあ、俺が死んだのは認めるとして、もしかして俺を殺してねえか?」

「いや私そんなことしてませんって!!」


 全力で否定されたが可能性としては捨てきれない。なんかこういう転生系で神に殺されて転生するパターンどっかであった気がするんだ。

 もしそうだったらこいつをしばきてえな。殺したいとまでは流石に思わないけど報復はしたい。


「まぁとにかく!あなたにはこの世界の問題児どもをどうにかしてもらいます!」

「俺にお前を助ける義理もメリットもないのになんかお使い押し付けるのやめてくんね?」

「いや、そんなことはありません!あなたが私の依頼を達成した……なんとその暁には元の世界で生き返らせてあげます!!」

「は?別に俺生き返りたいと思ってないんだけど。いらないんだけど」

「え?」


 自称神が驚いた声音で数秒押し黙った。自分で召喚しといて問題児どもって言い方さぁ。俺はこの自称神ってやつ、ほんま嫌いだわ。


「え……え、なんで?」

「なんでって言われても……生きていくのってめんどくさくね?苦痛は確約されてる割に快楽があるかどうかは運と自分次第じゃん。そんなクソゲーあんまりやりたくねえんだよな。同じく異世界転生もしたくねぇし俺つえーもチートもハーレムもいらねんだわ」

「???あなたは精神疾患をわずらっているのですか?」

「そりゃお前が言うには『ランダムに』選ぶんだから選んだ奴が病気持ってる可能性だってあるだろ」

「え……えぇ……?」


 自称神は焦っているようだった。おおかた、精神病んでる奴にそんなでかい仕事任せるわけにはいかない、とかだと思われ。


「まぁ俺は別に精神疾患なんて持ってないけどな」

「???ど、え?どういうこと?」


 この自称神は人間の価値基準ではかったらそこそこ人の気持ちがわからねえ部類に入るんじゃないだろうか。


「俺がわざわざ生き返りたくないって言ってるのは俺の価値観であって別に脳の病気とかじゃねえから。俺は死んだ原因はよく知らんけど、自殺したわけではないだろうし、死にたかったわけじゃねえんだよ」

「えっと……」


 人の価値観でものを言うと、この自称神は相当傲慢なんじゃないかと思う。人間に対してまるで理解がなってない。いや、俺の価値観を理解してないから人を分かってないって口にするのは、主語がでかくなりすぎて、言い過ぎかもしれないけど。

 それにしたって、人間を転生させる仕事に就いてんなら生き返りたくないと死にたいの違いくらい学んでこいよと言いたくもなる。


「死ぬのは痛くて苦しくて辛いだろ?お前にわかるかどうか知らんけど、病気とか怪我とかだと、少なくとも『死ぬ』っていう精神的苦痛に肉体的苦痛を伴うわけ。だから自ら死にたいとは考えない。ただ突然死ぬなら、死ぬ瞬間は肉体的苦痛を伴うことがほとんどだが、精神的苦痛はないの。なぜなら自分が死ぬと予測しないから。で、俺は死んで、そのときの記憶がないから、実感も湧かないし苦痛を繰り返し思い出すこともない。なのでこのまま終われるなら終わりたいってこった。わかる?いやまぁ理解しなくても俺は困らないしお前を軽蔑するのは変わらないけど」

「な、なるほど……」

「あ、ようやくわかった?」


 まぁ多少はね?で許容できる範囲を超過しやがっていた自称神はなんとか理解できたっぽい。自称神の人間力が上がった!やったね!ただし人様からしてクズには変わりない模様。


「わかりました……じゃあ、どうすれば……ああそうだ!そちらの世界で言う『チート能力』などを授けて転生してもらうこともできますよ!敵を一撃で屠れる能力、どんな美女でも一目惚れさせる能力、私ならある程度融通が利きますよ!!」

「いらねぇ~~もらったとしてそれ借りモンだしぃ~~努力で身につけた代物じゃなくてポッと出のあぶく銭みたいなもんだろ?宝くじ当てて大金ゲットした奴がいたら、それは運がいいだけであってそいつの実力じゃないの。運も実力のうちって言うけどさあ、そんなんで無双したって虚しくなんねぇ?」


 自称神は沈黙した。……俺が異世界転生が嫌いなのって、異世界転生したら誰でもラノベの主人公っぽくなるんじゃないかって危惧もあるんだけどなぁ。あんな風になるくらいなら潔く死んどいたほうがマシだっての。


「……こんなに手強い人は初めてです……」

「え?これくらいクレーマー気質の奴にはいるんじゃね?」

「いえ、皆様は『ファンタジー的世界観の異世界に行ける』っていえばノリノリで転生してくださったので……」

「危機管理能力ゼロの頭ゆるふわかよ」


 流石に自分ごとになると思ったらそんなラノベ読み始めるくらいのノリで承諾すんなよ。こいつの主観だから客観的事実とは違う可能性もあるけど、それにしてもこいつが嘘つく理由はおそらくない。しかも、全員とはいわずにかなり多くの人間がそういう態度を取らないと、主観のふんわりした統計でもそんな感想は出てこない気がする。


「つかそんなに簡単に転生させてるくらいなら、何かしら転生先の世界の世界観説明とか、あと自分がどういう立場になるのかっていう事前の開示とかあるだろ?俺が突っ込まなかったらまさか見せないまま転生させてるとかないよな?」

「それは流石に……転生先は選べるようになっておりますから……皆様のご希望を」

「じゃあマニュアルは?説明書は?契約書は?」

「え?」

「だからさ、詰めが甘すぎなんだよ。そんなんだから転生者に好き放題されるんじゃね?具体的にどういう風に好き放題されたのかは知らないけど、このガバガバシステムだったらお前が割りを食うのも自分の所業が自分に返ってきたとしか言いようがないって。悪気があんのかないのかって思えば多分ないんだろうが、返ってくるのは過程じゃなくて結果だからな」


 そういえば転生者っていう用語、普通の人に通じるんだろうか。ラノベ界隈ではあまりにも常識的すぎて1+1くらいの感覚だからよく考えたことなかったわ。

 ただ悪気がないっていってもされた方からしたらたまったもんじゃねえしな。どちらにせよクソ。


「うぅぅぅうううう…………」


 自称神(笑)はうなりだした。えっ人間味強いな。もしかして「神」っていう定義が俺の思う「神」と違うのかもしれない。


「めんどくさ……」


 なんだろこいつ。こいつの相手してるほど俺暇じゃない……あ、死んでたわ。じゃあ暇だ。でもこんな奴の相手して時間潰すくらいならさっさと死へ戻って終わりたいと思う。


「てか転生させるなら俺じゃなくてよくね?どうして他の輩を選ばなかったんだよ?」

「……波長が……合ったり合わなかったりで……あなた以外を選ぶとなると相当難しいといいますか、死にたての人間かつこの世界との波長が合うってなるとあなたくらいしか……」

「あほくさ」


 波長って何。聞いたら専門用語まみれの解説で理解する気が失せた。これだから自称神(笑)はよぉ……

 まぁ俺を殺してないっぽいことは証明された。だって俺を転生させるために殺したんなら波長が合いそうな人間を殺して、というか地球の人間を殺しまくってガチャを引けばいいわけで。

 でもそのことについて言及したら「そちら側の神がいくら放任主義って言ってもただじゃ済まされません!!」と叫ばれた。俺の生きてた場所の神って放任主義なんだ。へー(小並感)


「で?じゃあお前は俺を意地でも転生させたいわけだ?」

「そうです!!そうに決まってます!!!」

「はぁ~~~~~~~(クソでかため息)無理やり転生させたらお使いを済ませてくれないかもしれないからかね?しょうがねえなあ。そこまで言うんだったら協力してやるよ」

「え、あ、ありがとうございます!!」


 まぁ嘘だけど。

 こいつラノベのご都合展開みたいに俺の思考読めてないっぽいし。

 


「では、転生先のご希望などはございますか!?」

「えー……衣食住に困らなくて、自由度の高い場所……でも貴族って定番がいんのか知らないけど特権階級は嫌だな……やること多そう……んーなんか人里離れててあと簡単に死なない程度の能力値があってぇ……それくらいの条件でどっかいいとこない?候補教えて。あとお前といつでも連絡取れる手段くれ。それと世界観の説明詳しくな」


 とりあえず自称神から転生先の候補をいくつか聞いて、内容を吟味し、一つ選択した。そこで気づいたがこいつの言う転生って赤子になってイチからやり直すタイプじゃないのな。元の人間と地続きの肉体(なお希望すれば体型とか顔とか改造可能)で異世界にぶち込まれるらしい。

 正直顔面はよくしてもらったほうが第一印象は良いし、人からの好感度も多分上がりやすくなるだろう。が、そんなんもらってイキり散らかす人間には絶対なりたくないので、遠慮しておく。


 そこで連想したけどぶっちゃけチートならほしい。なぜかといえば、自分の身を守る手段になるためだ。しかしチートがあるとうっかり事故で死んで終わる……みたいなことができなさそう……ってあれ?


「そういえば俺転生した後の世界で死んだらどうなんの?」

「私が蘇生いたしますので心配はございません!」

「あれお前さっきまでの俺の話聞いてた?」


 たぶんこいつはタダで済ます気がないので、死んだらすべての終わりということはないとみた。


「え、じゃあ俺死んでも無限に生き返らせられて異世界に突っ込まれるわけ?」

「?……?はい!」

「ふーん」


 逃げ道が全然ない。ぶっちゃけ死んでもオッケーなら逃げ方なんていくらでもあると思っていたが全く違った。思いつく限りすべての退路が絶たれている。こいつを殺せたらなあ。でもいくらなんでもこいつが俺に神を殺せるような力を与えるわけないし。もしこいつを殺したら世界が滅亡して(ryみたいな世界との無理心中になってしまう可能性があるし。それは良くない。そこまで迷惑かけて死んだ状態に戻りたいわけじゃねえんだよ。自滅してる輩はともかくなんもしてない奴に危害加えるような悪趣味じゃないし。


 めんどくせ。


「……そうだ。俺がお前の依頼を完遂したらなんかご褒美があるよな?」

「えっいいですよ~何がお望みですか?」


 自称神は先ほどと打って変わって、喜色に満ちたで言った。


「俺を元の状態に戻してほしい」


 神は沈黙した。


「ちなみに死ぬ時には痛みとかがないようにしてくれよ。そうすれば普通に死ぬよりずっとマシだわ」

「……本当にそれで良いのですか?」

「良い。俺は死んだんだ、それ以上でもそれ以下でもねえっての」

「わ、わかりました」


 は~~~ダリぃわ。こんなにダリぃの久々じゃないか。俺は眼前のクソ野郎に向けて、心の中でそっと中指を立てておいた。

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