(自称)女子高生ディア15歳のアレ

佐々木英治

(ディア1):雑談的なサムシング

 #この物語に出てくる登場人物は全員16歳以上です。


 ディア・スタイナー(戸籍上の本名はともかく)。15歳(自称)、女子高生(自称)。

 アヤナ・フランソワーズ。17歳、女。

 モニカ・マリウス。13歳、女。

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「ねぇアヤナさぁー」

「なにディア?」

 ディアが、ふにゃふにゃとアヤナに声をかける。

「えっとね。アヤナに相応しくて、そしてキャラが立つ、しかも薄い同人誌がいっぱい出版されそうな物凄い肩書きを思いついたんだけど」

「だからなんなのよディア」

 アヤナは気だるそうにディアを見た。

 ディアはポニーテールの赤茶けた髪と連動するように、ポツリと呟く。

「『おてんば姫』」

「?」


 不思議がるアヤナをよそに、驚いたモニカが慌てて手で制止する。

「ディアさん、ディアさん! 待って待って! ヤバい発言はやめてくださいってば!」

「別にどこの誰がおてんばだとは言ってないっしょ? お姫様が10人くらいいれば、その中の一人や二人くらいおてんばが混じっていても不思議じゃないわ。知らんけど」

「でも大抵の人は、あの東側の壁をブチ破ったあそこの姫君を連想するのでは」

「いあぁ、流石に個人の連想までは知ったこっちゃないし」

「でも……」


 あたふたするモニカに、ディアはクスクス笑った。

「他に例えば『暴れん坊』とかも同じかも」

「ちょっ、ちょっと待ってくださいってば!」

「いや別に誰とは言ってないし」

「そうですけど……」

「謎サンバ踊るかもしれんけど」

「だからやめてってくださいってば!」


 アヤナが、んーっと『伸び』をした。

「それでさディア」

「何?」

「そもそもなんでアンタは15歳の女子高生を名乗ってるのよ」

「え。そのほうが色気があるんじゃないかなーって。別に女子高生になるのに資格とかいるわけじゃないし。名乗るぶんにはいいかな、って」

 モニカはディアの顔を見てから、少しうつむいていた。

「(多分、どっかの高校で入学要項を満たして入学試験を合格しなきゃ女子高生にはなれないと思うんですが)」


 アヤナは珍しい人を見るような目で(実際ディアは珍しい人だが)、念を押すように言う。

「だいたいディアって、まだ20歳になってないでしょ? サバ読むような年齢じゃないと思うけど」

 ディアは胸を張る。

「そりゃ、選挙で世の中のロリコン票を取り込むためよ」

「ふーん?」

「でも世の中ってさ。ロリコンは社会的に抹殺されるけど、ショタにはわりと寛容じゃないかしら? なんでだろ?」

「知らないけど」

「そんでさ。女子高生が率いるロリ集団を支えてる一般人男性って、響きが凄くない!?」

 モニカは口には出さなかったが、多分表情には出た。

「(イヤすぎる……)」

 一方のアヤナは、またも気だるそうに言う。

「でも。だいたい選挙に出馬する時ってさ、自称じゃなく戸籍上の年齢を言う必要があるんじゃないかしら?」


 ディアは神妙な顔をした。

「……それはピンチ」

「それに選挙権はまだしも、被選挙権って25歳くらいじゃなかったっけ?」

「う。ヤバすぎる状況……」

「だったらもう町内会長あたりに立候補しなさいよ。アレなら誰でも(失言)できるでしょ?」

「でもインパクトがなぁ……」


 アヤナは軽く手を広げ、訊ねた。

「だいたいディアってさ、将来設計どうするつもりなのよ」

「宝くじに当たること!」

「いや、もう少し現実的で」

「会ったこともない叔父から莫大な遺産が転がり込むこと!」

「そんな人、いるの?」

「ないけど?」

「あぁ……」


 ディアはニコニコする。

「後は私、引退したらロックで食べてくつもりなの。しかもアカペラでさ」

「それ前にも聞いたけど、アカペラでロックは厳しいと思うけど……」

「ソウルがあれば大丈夫よ、きっと」

「でもディアがやる楽器ってアルトリコーダーでしょ? 弾き語りできないじゃん」

 ディアは顔を青くした。……そもそも最初から気づいても良さそうだが。

「ど、どうしよ!? 私、そんなの考えてなかった!」

「そんなの最初に考えるべきでしょうよ……」


 慌てるディアに、モニカが根拠のないフォローを入れる。

「ディアさん、ディアさん! きっと大丈夫ですって! ディアさんほどのお人なら!」

「でもさモニカ。だいたいアタシ、怪しい壺や絵画を売ることくらいしかできないよ!?」

「それで十分生きていける気がしますが………倫理的にはともかくとして」

「あとデパートでよく切れる包丁も売れる気がする」

「多芸ですね」


 ディアは赤茶けたポニーテールの髪をフリフリさせる。

「あぁ。この髪が赤ってのも残念。金髪とか黒髪が良かった」

「私には綺麗に見えますけどね」


 だがディアはグッと拳を握って、軽く叫ぶ。

「絶望したッ! 世の中の赤い色に絶望したッ!」

「た、例えばどんなのです……?」

「有名な赤い野郎は通常の三倍だし! 卑怯じゃん、あんなの!」

「でもディアさん! 大丈夫! ガ○ダムにだって5倍のゲインがあります!」

「でもいつもの2倍のジャンプと3倍の回転を加えれば、6倍にもなってしまうわ!」

「でも、ヤ○チャさんの成長率は、悟空さの約7倍と聞きました! 悟空さなら界○拳10倍とか20倍だってできたんで、それならヤ○チャさんだって、きっと界○拳70倍とか140倍ができますよ!」

 無茶振りをするモニカである。明らかにヤ○チャが死にそうだが。……ただサブカル系に詳しくない貴族のアヤナは、あまり意味が分かっていなかった。


 ディアは叫ぶ。

「ともかく、もう赤いのは嫌いなの!。イライラするし! 世界の全ての『赤』が、例の兄さんのものになってしまえば、どんなにいいことか!」


・赤点

・赤紙

・赤信号

・会社の赤字でボーナスなし

・レッドカード

・思想がアカい人(注。詳しくは語りません)


 しかしそこでモニカが拳を握りしめ、やや大きな声で言った。

「ダメですよディアさん! 全ての『赤』が兄さん専用になると、困る人がいっぱいに!」


・郵便ポストが兄さん専用だったらお手紙はどうすれば?

・赤ペン先生が職を失う

・運命の赤い糸を信じる乙女は永遠に誰とも結ばれず

・休日(カレンダーの赤いとこ)に休めない

・全ての国の赤ちゃん(いくら兄さんとは言え養育費を負担できそうにない)

・広島カープの編成部


 ディアは拳を握り返す。

「でもでも。もとエンゼルスのオオタニさんだって、例の赤い兄さんがいれば残留していたかもしれないじゃん!?」

 アヤナは冷静な意見を返す。

「時事ネタは古くなるんでやめといたほうがいいと思う……」

 何気にわかっているお姫様である。

 ここらへん、前世がお姫様だと言い張っているディアと決定的な点だ(色々と)。


 モニカが恐る恐る手を上げた。

「ところでディアさん。このタイトルは『奇妙な冒険』ですが、何か奇妙なんですか? 波紋法使えるとか?」

「うん。占い師にそう言われたから間違いないわ」

「えぇ……」

 アヤナは明らかに不安の表情だ。対照的にディアは明るい。

「実際、頑張ればだいたい10回に1回くらいは例の呼吸に成功するんで、割と大丈夫なんじゃないかと」

 モニカは少し小声で言った。

「10回に1回じゃ、実戦で使えなくないです?」

「10回のうちの1回を引き当てるか、呼吸を10回すれば平気じゃん?」

「そうスか……」


「主人公補正とかヒロイン補正とかあるし、平気平気!」

「(ディアさんって主人公でもないしヒロインでもない気がしますが……)ともあれディアさん。波紋の呼吸はともかく、スタンドは持ってるんですか?」

「もちろん」

「えぇっ!?」

 モニカは極端に驚いた。まだ幼いので感情がダイレクトに出てしまう。続けてアヤナが言う。

「ディアのスタンドってどういうの? 特殊能力とかあるの?」

「そりゃそうよ。だってウチの本編だって、特殊能力とかで戦う系のライトなファンタジーでしょ?」

「(そうかなぁ……)で、ディアの特殊能力は?」


 ディアはグッと拳を握る。

「私の特殊能力は『マヨネーズをかければ苦手なセロリも食べられる』能力」

「……それって能力なの?」

「んー。マヨネーズは万能だから、微妙な能力なのよねー」

「まあいいけど。……でも例えばレーンはどういう特殊能力を持ってるの? 付き合い長いから知ってるでしょ?」

「アイツの特殊能力は『出会った人の名前と顔、肩書きを、一発で覚えられる』能力」

「あ、それ便利かも。少なくともマヨネーズよりは」


 モニカは頭を掻く。

「どちらもバトル系の能力じゃないのがアレですが。ウェインさんの特殊能力って知ってますか?」

「知らないけど?」

「なんでです?」

「いや別に言われたことないし。まあアイツは主人公ムーブはしてないけど、それなりの人だから、冒険者ギルドへ行ってステータスオープン連呼してれば何かいいスキル見つかるんじゃない?」


 少々困っている感じのモニカである。話半分に聞いてたアヤナは片手を上げた。

「じゃ。肝心のディアのスタンドはどんなタイプなの?」

 ディアは少しうつむき加減で言った。

「超接近型」

「おお。主人公みたいでカッコイイですね」


「射程2センチ」


 アヤナとモニカと、愕然とした。

「2センチ!?」

「それって『抱きつく』以外の攻撃方法あります?」


 ディアはやや肩を落とす。

「ちなみにパワーもスピードも弱い」

「ダメダメですやん……」

「スタンド使いは惹かれ合うらしいんで、むしろ邪魔」


 なかなか酷い、奇妙な冒険(自称)である。


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