ギャラクシーマーゲン

ふり

1・チャレンジチャーハン

 欲しいものがあるから大食いにチャレンジしたものの、胃が悲鳴を上げていた。

 食べたチャーハンが胃と食道の間にあるような気がする。まだ半分近く残っているそれを、忌々しい思いでにらみつけて何分経っただろうか。

「お客さんギブアップ?」

 店主がニヤニヤしてカウンターからこちらの様子を伺っている。

 冗談じゃない。ここまで一生懸命食べて来たのに……。

 絶体絶命だ。チャレンジに成功すれば5000円、失敗しても5000円。今の私には大きい金額だ。下手したら2週間分の食費が吹っ飛ぶ。毎日もやし生活は嫌だ。

 レンゲを動かそうにも体が拒否している。脂汗が体中に滲み出ているのがわかった。口に入った瞬間、リバースしかねない。これはもうあの人を呼ぶしかない。

「助けて! にえアナウンサー!」

「何ッ? 贄アナだと!?」

 引き戸が開き、顔以外ぽっちゃりした女性――贄アナがデジカメ片手に入店してきた。

 贄アナはテレビ新後にいごのアナウンサー。ニュース読みもするが、明るく大らかな性格から主にバラエティー番組の担当が多い。そして、食べることが何よりも大好きな人だ。

「どうも〜、テレビ新後の贄でございま〜す。助けを呼ぶ声が聞こえましたが、どうしたんでしょうか?」

「チャーハンが食べきれなくて、ピンチなんです……」

「了解です♪」

 私の隣に座って手を合わせる。

「いただきます!」

「ちょい待ち!」

 店主の静止を無視し、レンゲを高々と振り上げ、チャーハンの山に突き入れる。まるで山を切り崩すショベルカーのようだ。

「う〜ん、冷めても美味しい! これはマヨネーズも使ってますねぇ〜?」

「お、おう。そうだよ。よくわかったな」

「これは進みます!」 

 一突き入れるたびにレンゲが山盛りになる。それを恥ずかしげもなく大きく開かれた口が迎え入れる。

「具も卵とチャーシューがいいですねぇ。特にチャーシューが絶妙な塩梅。アクセントの焦がしネギも食欲を加速させます」

 食べこぼしもなく、一定のペースでチャーハンについて感想を入れつつ、あっという間に食べ尽くしてしまった。

「ごちそうさまでした〜!」

 1キロぐらい残ってたのにわずか5分で……。ちなみに、とある大食い有名人は1キロのチャーハンを7分弱で食べていたらしいから驚異的な早さだ。

「インチキだよインチキ!」

 店主が飛び出して来て腕でバッテンを作った。

「こっちは条件を提示して、お客さんがそれを受け入れてチャレンジしてるんだからさ。だからこのチャレンジは無効だよ!」

 ああ、無効にしてくれるんだ。それはそれで助かった。危機一髪セーフだ。心底ホッとした。

「あらまあ……。じゃ、私がチャレンジします。チャレンジチャーハンを所望します!」

「え?」

 店主と私の声が重なった。

「お腹が空いてる私が食べて完食する。この子はお金を貰える。店主さんは店の宣伝になる。一石三鳥じゃないですか!」

「なるほどな。よーしアンタ、吠え面かくんじゃねーぞ!」

 店主はチャレンジチャーハンを作るために厨房へ戻っていった。

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