2・贄アナのチャレンジ
「へいお待ち!」
ドンと置かれた2キロのチャレンジチャーハンに吐き気が催してきた。
「制限時間は10分! 成功しても失敗しても5000円ね!」
「わかりました! いただきまーす!」
贄アナが熱々のチャーハンを頬張る。
「できたてはおいひいでふね」
笑顔でハフハフ言いながら瞬く間に胃に落としていく。
「さっきより油ギッシュ感はありますけど、美味しさのほうが勝ってますね〜」
右手でレンゲを動かしつつ、左手でカメラで撮影している贄アナ。
「よかったら私が撮りますよ」
「申し訳ないけど、お願いしますね〜」
チャーハンをリポートしながらハイペースで食べ進める。しかし、何か異変に気づいたのか、手がピタッと止まった。
「あれぇ? このチャーハン下の方におこわと赤飯が入ってますねー」
カメラを向けてみると本当だ。チャーハンに不釣り合いな物が、当たり前のように入っているではないか。
「贄アナだから特別に入れといたよ。ほんのサービスさ」
ひでえ。なんちゅうことしやがんだこのオヤジ。
「えー!? ありがとうございます! どっちも大好物なんですよ。すみません、ごま塩を持ってきてもらってもいいですか?」
舌打ちをしながら店主は厨房からごま塩を持ってきた。
「こんな油っぽいおこわと赤飯を食べたことないですが、新鮮でベリーグッドです! モチモチ具合も堪りませんねぇ。これは『トラノモチ』でしょうか?」
「そうだよ」
店主が不貞腐れたように言った。その口振りからチャーハンの敗北を確信したようだった。
「ごちそうさまでした〜!」
普通の米より弾力があるはずなのにまったくスピードが落ちることなく、贄アナは残り1分を余して完食してしまったのだった。
* * *
私が贄アナから賞金を受け取ってお礼を述べていると、引き戸が開いた。
「はい、お疲れ様でしたー」
ディレクターがカメラマンや音声を引き連れて入ってくる。
「ご主人、ありがとうございました。挑戦者の
「ご主人の迫真の演技が素晴らしかったです!」
贄アナの嘘のない賞賛に、店主が得意気に鼻を鳴らした。
「昔ね。演劇を少しかじってたんだ」
そう、これは『新後こそ一番』という平日夕方の情報番組のコーナーの撮影だったのだ。コーナーの名前はその名も「爆食! 贄アナの新後メシ食べ尽くし!」である。
コーナーが始まった当初は、普通に店の料理や店主を紹介していたのだが、いつごろか小芝居を取り入れるようになった。
コーナー自体がミニドラマみたいになってしまったが、私はいつか出たかったからメールを送って良かったと心から思った。
「いやあ、生で見た贄ちゃんの食べっぷりは最高だったね。さすがは食べっぷりで数字が取れる女!」
「私の胃袋は銀河系なので♪」
ちなみに贄アナの食べっぷりは海外にまで轟いている。そんな彼女のあだ名は――ギャラクシーマーゲン。
ギャラクシーマーゲン ふり @tekitouabout
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