見習い術師 危機一髪

ムネミツ

 見習い術師 危機一髪

 寂れた寒村、客は少ない宿の一階。


 丸いテーブル席が三つでその場の人間は五人。


 男二人で飲み騒ぐ、みすぼらしい着物の中年男性二人。


 台所で仕事をする老婆。


 隅の方で言い合うのは一組の男女。


 「静かですが明るいお宿ですね、旦那様♪」

 「いや、耳と尻尾が出てるよ金鈴きんれい!」

 「獣人なら当たり前ですわ、旦那様♪」


 一人は上下黒いカンフー着の凡庸な東洋人の少年。


 もう人は、黄色い着物姿の金髪碧眼で狐の三位と尻尾の生えた美少女。


 少年と美少女は隣り合い睦まじくしていた。


 「おや、お客さん達は夫婦かい?」


 温和そうな青い着物の老婆、宿の女将が茶を差し出しながら語りかける。


 「はい、永遠の契りを誓い合った夫婦でございます女将さん♪」

 「まあ、そう言う事です」


 美少女は自慢げに、少年は照れくさく答える。


 「まあ、めでたいねえ♪ 奥様のお名前は?」


 老婆が徳利を開けて金鈴へと向ける。


 「ん? この徳利はまさか! 答えるな!」

 「金鈴と申します~~~っ!」

 「ヒヒッ、妖怪の酒は美味そうじゃ♪」

 「しまった、罠かっ!」


 押しかけ女房で相棒の金鈴が徳利に吸い込まれたのを見て、テーブルを蹴り

飛ばす少年。


 老婆は、見た目からあり得ないジャンプ力で飛びずさり回避した。


 「ヒャッハ~ッ! 人間の小僧は食っちまって良いよな母者♪」

 「そこそこ噛みごたえがありそうな肉だぜ♪」

 「良いよ、しっかりお食べ♪」


 客の二人と老婆が、バリバリと服を破り灰色の狼の怪物へと変化して行く。


 「ふざけるな! この来招福らい・しょうふく、お前らなんかに負けるか!」


 少年、来招福らい・しょうふくが怒りを爆発させて名乗る。


 「知るかよ、小童~っ♪」

 「いただきま~っす♪」


 人狼二匹が、招福へと襲い掛かる。


 「術式発動、風神符ふうじんふっ!」


 招福が蹴ってひっくり返したテーブルに貼られていた呪符から竜巻が起こり二匹を屋根をぶち破って空の彼方へと吹き飛ばす。


 「おのれ~っ! 良くも息子達を! こっちお前の嫁を殺してやるっ!」

 「そいつはどうかな、召喚符しょうかんふ発動っ!」


 徳利を開けて金鈴を飲み干そうとする老婆狼。


 だが、招福は懐から出した呪符を虹の七色に輝かせる。


 札から虹の輝きを背負って、捕らわれていたはずの金鈴が現れた!


 「お~っほっほ♪ 金鈴参上ですわ♪」

 「おのれ~っ! まさか式鬼召喚の術とはっ!」


 高笑いを上げる金鈴に悔しがる老婆。


 「妖怪を連れてる時点で、こっちが術師か英傑の類だと思わなかったのか?」

 「はっ! 妖狐のヒモか、非常食にしか見えなかったよ!」


 招福の煽りに煽り返す老婆狼、悔しいがな五sんでは納得してしまう招福。


 だが、その煽りに激怒したのは金鈴だった。


 「ああ? ふざけんなよクソババア! 私の旦那様を侮辱するな!」

 「ひっ、狐の妖力が上がった!」

 「さあ、旦那様♪ 私をお召しになって♪」


 全身から金色の妖気を噴き出した金鈴が招福に抱き着けば二人が光に包まれる。


 光に怯んで身動きが止まる老婆狼、そして光が消えると現れたのは一人の武人。


 「さて、鎧も着たしこれで英傑に見えるだろ♪」

 『旦那様は、天下の代英傑ですわ♪』


 全身を金色の狐を模した甲冑に包んだ招福。


 虚空から現れた、金色に輝く剣を手にして腰を落とし剣を寝かせて構える。


 「何だとっ! まさかお前達が噂の金狐侠きんこきょう!」

 「知った所でもう遅い、冥府で罰を受けろっ!」


 狐の妖怪を鎧として纏った勇士、金狐侠きんこきょうになった二人による斬撃で老婆狼は斬り倒された。


 「ふう、何とか切り抜けられたな♪」

 「旦那様の知恵と腕前ですわ♪」

 「お前がいたからだよ、ありがとう♪」

 「どういたしまして♪」


 変身を解き、感謝し合う二人。


 妖怪達を倒したら宿も村も消え、寂れた冬の荒野の中だった。


 「宿が消えたな、どうるす金鈴?」

 「ご心配には及びません、あそこに無人のお堂がございます♪」

 「ありがたい、泊めさせてもらおう♪」


 二人は、道の先に無人の堂を見つけると一夜の宿として借りたのであった。

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見習い術師 危機一髪 ムネミツ @yukinosita

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