家の鍵を失くしたので幼馴染に鍵のありかを占ってもらったら、諦めていた初恋が成就した。
石河 翠
第1話
「嘘でしょ……」
学校から帰ってきた私は、玄関の前で鍵を取り出そうとして固まった。鍵が、ない……。
電車に乗っている時にはポケットの中にあった。定期を取り出すときに確かめたのだから。まさか、駅を出るときに落としたのだろうか?
母の声が脳内をよぎる。
――今日の帰りは遅くなるからね。お金は置いとくから、好きなものを適当に買って食べなさい。大丈夫だと思うけど、鍵は絶対に落とさないように。万が一失くしたりしたら、玄関の鍵自体を交換するから。もちろんその場合、あんたの小遣いからさっぴくからね――
「ダメだ……。詰んだかも……」
「どうかした?」
突然声をかけられて、私は思わず飛び上がる。振り返った先には、同級生がひとり。学校でもカッコいいと評判のイケメンだ。ありふれた制服がオーダーメイドのように似合っている。
「いや、鍵をなくしたっぽくて」
こんな美少年がわざわざ声をかけてくる理由はただひとつ。家が隣同士の幼馴染だから。まあ、小学校を卒業して以来、ろくに会話もしていない相手を幼馴染って呼んでもいいのならって話だけどね!
「探すの手伝うよ。立ち話もなんだし、とりあえずうちにおいで」
「いや、でも、いきなり悪いし」
「大丈夫、今日はみんな出かけてる」
ただの隣人にすら優しく接してくれるとは。さすがカースト上位は、心に余裕がありますね。ちょっとひがみっぽくなってしまうのは、相手が遠い存在になってしまったからかもしれない。昔は下の名前で呼びあっていたもんだけどなあ。
懐かしさに浸っていても仕方がない。実際このままではどうしようもないわけで、私はお言葉に甘えてお邪魔することにした。
「お、おじゃまします」
「やだなあ、
突然の名前呼びに、私はひとり挙動不審になる。確かにさっき、ちらっと考えたよ。でもさ、こういうのは心臓に悪いんだってば。
「ついこの間まで、しょっちゅううちに来てただろう。最近、全然顔を見せてくれなかったから寂しかったんだよ。おやつ持ってくるから、そこのソファーにでも座ってて」
思った以上に歓迎されて、微妙に私は恥ずかしい。理沙ちゃんなんて呼ばれたの、いつぶりだっけ。落ち着かないままソファーに座り視線をさ迷わせていると、目の前にケーキが差し出された。
「はい、どうぞ。お腹が空いていると、悪い方向にばかり考えちゃうからね。まずは美味しいものを食べて落ち着こう。あれ、理沙ちゃん、どうしたの? イチゴのショートケーキ、好きだったでしょう?」
「う、うん。ありがとう」
私の好きなもの、ちゃんと覚えていてくれたんだ。それがなんだか地味に嬉しい。ちらりと横目で悠人を見れば、訳知り顔で頷かれた。
「俺のケーキにのっているイチゴも、ちゃんと理沙ちゃんにあげるから」
「もう、小学生じゃないんだし。
「理沙ちゃん……」
しまった。つい気が緩んで、昔のように「悠人」なんて呼んでしまった。いくら私が悪いとはいえ、面と向かって「キモい」とか「幼馴染気取り」なんて言われるのは辛い。謝るから、それだけは勘弁して。
「ご、ごめ……」
「久しぶりに、ちゃんと名前を呼んでくれたね!」
「え?」
「昔はいつでも一緒だったのに、最近の理沙ちゃんは俺を置いて登下校しちゃうし、クラスでも俺が近づくと嫌そうな顔をするだろ。全然話せなくて、寂しかったんだ」
いやいや、学年人気ナンバーワンの男子と、学校で気軽に会話とかできるわけないじゃん。女子の嫉妬って怖いんだよ。
「あ、理沙ちゃん、頬にクリームがついてるよ」
「え、どこ?」
「じっとしてて。とってあげる」
いやいや、近い、近い。こんな密接したパーソナルスペースが許されるのは、満員電車の中くらいだから。至近距離で見た悠人の笑顔は破壊力満点で、思わず胸がドキドキする。
「ど、どうやって鍵を探したらいいと思う?」
私の必死の質問に、悠人はさらに笑顔を輝かせた。
「占いだよ!」
「まずやるべきことは、近くの交番や駅に落とし物として届いていないかの確認じゃないの?」
「じゃーん、これを見て!」
「話を聞いて。って、何これ」
悠人が高々と手に掲げていたのは、テレホンカード。すごい、実物を見たのなんて初めてだよ。こんなものがトランプ並に大量にそろっているってどういうこと?
「じいちゃんがね、昔集めてたんだって。いつかテレビの鑑定番組に出て、オープンザプライスってやってもらうことが夢だったらしい」
「現実は?」
「町の金券ショップに持ち込んだら、それぞれの度数の3割程度でなら引き取ってくれるって」
「まさかの額面割れ!」
「高値で取引されるようなレアなカードは、限られているからね」
世の中は厳しいということが私にもわかった。でもね、テレホンカードで占いをするとか聞いたことないから。
「まあ、ちょっと試してみてよ」
どこからそんな自信がわくのか、悠人は私に向かって片目をつぶってみせた。
********
テレホンカードの束を悠人に手渡される。
「それでは、まずカードをしっかりと切ってください」
「はい……よいしょっと、あ、やっぱり何枚か落ちちゃった。これ、テーブルに広げてから混ぜてもいい?」
必殺初心者シャッフル!
見た目はカッコ悪いけれど、簡単にしかもまんべんなくカードを混ぜられるから便利なんだよね。
「大丈夫だよ、俺がやるから」
「悠人はカードを切るのが昔からうまいよねえ」
「そう?」
「うん、マジシャンみたいでカッコいい」
悠人がはにかむ。少しだけ耳が赤くなっているのを見て驚いた。変なの。学校でファンの女の子たちにいつもカッコいいって騒がれていても、冷静な顔をしているのに。
「今日は、ばばばばーって音をたてながら混ぜる派手なやつはやらないの? あれ、好きなんだよね」
「ああ、リフルシャッフルのことね。あれは、カードが曲がっちゃうから。でも、理沙ちゃんが見たいのなら」
「テレホンカードが換金不可になるのは良くないと思います!」
いろんな度数のカードが無作為に混じっているとはいえ、金額を想像したら叫びたくなった。現金にかえなくても、電話代に充てることもできるって聞いたことがあるし、折り曲げ厳禁でお願いします。
「でも、嬉しいな。カードのシャッフルは、理沙ちゃんにカッコいいって思われたくて練習したからさ」
ストレートな言葉に、私は顔が熱くなる。こういうことを簡単に言うから、イケメンは危険なんだよな。落ち着こうとゆっくり深呼吸をして、シャッフルされるカードだけを見つめた。
よく混ざったカードをとんとんとひとまとめにした悠人は、今度は私にカードを5枚取るように指示してきた。
「受け取ったカードにおかしなところがないか確かめたら、1枚ずつ表に返してね」
「テレホンカードに不審なところがあったら、事案だからね。それ偽造テレホンカードってやつだから」
私は言われた通り、適当に選んだテレホンカードの絵柄を確かめることにした。
1枚目は、2匹の柴犬の写真だ。ころころとした子犬というのが、またポイントが高い。
「柴犬可愛いね」
「理沙ちゃんは犬派だよね」
「うーん、猫も好きだけれどね。でもやっぱり家にも柴犬の豆太がいるし、やっぱり犬派かなあ」
「豆太、元気にしてる?」
「うん。よかったら、今度豆太と一緒に遊ぶ?」
「やった!」
ガッツポーズをする悠人を見て、私はなんだか懐かしくなった。そういえば、小学生の頃はふたりで豆太の散歩をしていたんだっけ。
「はい、次はこれ」
2枚目は、魔法使い姿のネズミが印象的なとあるテーマパークのもの。
「小さい頃は、うちの家族と悠人の家族でよく一緒に遊びに行ったよね」
「そうそう、買ったばかりのアイスクリームを落として俺がへこんでいたら、理沙ちゃんが半分分けてくれたり」
「そうだっけ? 私がパレードの最中に迷子になりかけたのを、悠人が見つけてくれたのは覚えているよ」
「暗い中を、全然違う方向に向かって歩いていたからびっくりしたよ」
「迷子センターに行こうと思ったんだ」
「行動力のある迷子はヤバい」
まったく、失礼だな。ちょっと方向音痴なだけなのに。
3枚目の絵柄は、京都の金閣寺。
「なんか、えらい渋いねえ」
「でもまあ、ご当地テレカって昔はメジャーだったみたいだよ」
「小学校の修学旅行も京都だったよね」
「理沙ちゃんが、金閣寺に行こうとしてなぜか銀閣寺に到着した伝説のアレね」
「いや、あれはバスがおかしいんだよ。ちゃんと確認して乗ったのに変なところに着いちゃってさ。私がリーダーだったのに、班のみんなには申し訳なかった……」
「まあ、結局タクシーに乗って観光できたわけだし」
「ごめんなさい」
「いいよ、理沙ちゃんのおかげで俺たちすごく楽しかったからさ」
悠人は昔からこうだった。誰かが失敗しても責めたりしないで、良かったことや楽しかったことをたくさん褒めてくれる。だから、悠人がみんなの人気者になっちゃうのは当たり前のことなんだよね。
さて、お次は4枚目。出てきたのは、椿の花だ。
「雪椿って書いてあるね」
「新潟県の木とも書いてあるね。県花ってことかな」
「新潟って、悠人のおじいちゃんとおばあちゃんが住んでいるところだよね。前に雪だるまをお土産にしてくれたの、嬉しかったな」
「こっちに帰ってくる頃には、ものすごく小さい雪の玉になってたけどね」
「いやいや、気持ちがこもってたよ」
「確かに、大好きって気持ちを詰めたからね」
ナチュラルに「大好き」だなんて言われて、私は顔が熱くなった。まあ、所詮は小学生の話だしね。勘違いして
「つ、次で最後だよ」
5枚目のテレホンカードを前に、悠人は何も言わなかった。今までとは全然違う真面目な顔で、私を見つめてくる。何を考えているのかちっともわからなくて、私は急いで5枚目のカードをめくった。
出てきたのは、ピンク色のウエディングドレスを着た花嫁さん。すごく素敵な笑顔だけれど、モデルさんとは少し違うように見える。横にいる花婿さんといい、言い方が悪いのだけれどすごく普通な感じ。
「これ、どこかの結婚式場の宣伝用かな?」
「いや、じいちゃんが勤めていた会社のお偉いさんのお嬢さんらしい。結婚式の引き出物に、自分達の結婚写真でテレホンカードを作ったんだって」
その昔、結婚式を挙げた新郎新婦の名前入りの大皿が流行ったって聞いたことがあるけれど、こういうバージョンもあるのか! 思わず感心して見入っていると、悠人に尋ねられた。
「イタいとか思ってる?」
「うーん、どうかな。ちょっとびっくりしたけれど、こういう記念品を作って配りたいくらい、幸せだったんだろうね」
それだけ相手のことを好きだと思えるなんて、羨ましい。それが今の私の正直な気持ちかもしれない。
「そうだね。じいちゃんは、『このテレホンカードに穴をあけるなんて縁起が悪い!』とか言ってて、結局未使用なんだけどね」
「まあ、名前入り大皿と違って場所を取らないだけマシかな? うっかり落として割ってしまう心配もないし」
「俺は、理沙ちゃんと俺の名前入りの大皿なら毎日でも使いたいけど」
「やめてよ。そうやってさっきから私のことをからかうの。全然、そんなこと思ってもいないのに!」
とうとう耐えられなくなって、私にしては強い口調で悠人を責めてしまった。悠人は怒らずに、私の手に自分の手を重ねてくる。
「鍵のありかを占う前に、教えてほしいことがあるんだ。どうして理沙ちゃんは、突然俺を避けるようになったの? 今日しゃべってみてわかったけれど、俺のことが嫌いとか怖いってわけじゃないよね?」
その言葉に私は胸がぎゅっと痛くなり、唇を噛み締めた。
********
「そんなの、どうだっていいじゃん。もう小学生じゃないんだから、べたべたするのをやめようと思っただけ」
「それでも急過ぎるだろ」
「そんなの悠人には関係ないでしょ」
今までの和やかな雰囲気から一変、冷たい空気が一気にリビングに広がる。少しだけ困った顔をした悠人が、渋々といった様子で口を開いた。
「じゃあ、鍵のありかと交換だ」
「鍵、どこにあるかわかったの?」
「ああ。安全な場所で保管されているから、安心してくれていい」
占いと言いつつ、実質おしゃべりしかしていなかったはずなのに、どうしてわかったのか。けれど、悠人はこういう時に変な嘘をついたりしないと私は知っている。今でもやっぱり、当たり前のように悠人を信じてしまう。私ったら、本当にバカみたい。
「わかったよ。言うよ。言えばいいんでしょう」
泣き出したくなるのをこらえて、ぎゅっと制服のスカートを握りしめた。
「だって、悠人が言ってたんだよ。私のことなんて、『幼馴染なんかじゃない』って。グラウンドで休憩中の悠人が、同じ部活のみんなに話しているのを聞いたんだから」
「……え?」
グラウンドのよく見える場所には、悠人ファンの女の子たちが陣取っている。だから私は、少し離れた渡り廊下からグラウンドを眺めるのが好きだった。こっそり応援できていれば、それでよかったのに。「幼馴染じゃない」なんて言われたら、もう声だってかけれられないよ。
「もともと前から、部活の女子マネージャーさんや悠人のファンの女の子たちに、『勝手に幼馴染だと言ってつきまとうな』とか『家が近所なだけで調子に乗るな』って言われていたし……私だけが距離感ナシで勘違いしていたんだって、あの時わかったの」
「ちが」
「迷惑ならもっと早く直接言ってほしかったよ。今日のことだって、お隣さんとして見過ごせなかったのかもしれないけれど、ここまでしてもらう必要はやっぱりなかったんだ」
だめだ、言葉が止まらない。
せっかく昔みたいに話せて嬉しかったのに。見ないふりをしていた汚い気持ちがあふれ出してしまった。これ以上、悠人に嫌われたくない。
「鍵のことはもういいや。私、帰る」
「待って」
涙がこぼれるのを止められなくて、私は立ち上がる。泣き顔が綺麗な女の子になんか私はなれない。鼻水だって垂れちゃうし、今よりさらにブサイクな顔になるだろう。それがわかっていたから帰ろうとしたのに、そのままぎゅっと悠人に抱きしめられた。
「なんで、こういうことするの!」
「違うよ、俺はね『ただの幼馴染なんかじゃない。将来はお嫁さんになってもらうつもりだから』って、そう言ったんだよ」
「嘘だ」
そんなことありえない。それじゃあまるで、悠人が私のことを好きみたいだ。
「本当にあいつら、勝手なことばかり言いやがって。守れなくてごめん。マネージャーは、やっぱり来年から同性に限るって案を通してもらわなきゃな。俺は理沙ちゃん以外の女の子になんて興味はないから」
とんとんと、なだめるように悠人が私の背中を優しく叩く。
「信じてくれるまで何回でも言うけれど、俺はね、理沙ちゃんが好きなの」
悠人の腕に力がこもった。
「俺が昔、
「う、うん」
今のすらりとした悠人からは想像もできないくらい、小学生の頃の悠人はぽっちゃり体型だった。足も遅かったし、ちょっと引っ込み思案な男の子だったっけ。でも、今と同じように誰にでも親切で笑顔が素敵だった。
「俺、あのあだ名もイジりも本当はすごく嫌だった。デブで運動が苦手な自分だって嫌いだった」
「……うん」
「みんなが俺のことを笑う中で、理沙ちゃんだけが笑わなかったんだよ。それどころか、一緒に豆太の散歩をしようって誘ってくれた。運動って楽しいなと思えたのは理沙ちゃんのおかげ。運動するようになったら食事の時間も決まって、びっくりするくらい痩せたしね」
ああそうか、そういえば走るのが苦手だって話していたから、悠人を豆太の散歩に誘ったんだっけ。散歩中も駆け足だし、途中の河川敷でボール遊びなんかもやったりして、結構な運動になるからって。
「昔から俺のことを変わらずに見てくれているのは、理沙ちゃんだけだよ」
信じていいのかな。
ゆっくりと顔を上げれば、思ったよりも近い場所に悠人の綺麗な顔があった。頭はもうパニックで、それでもこれが夢じゃないと確かめたくて、震える声で念押しする。
「わ、私なんかでいいの? やっぱり冗談でしたって言われても、私、つきまとうよ? 今度こそ『幼馴染特権』、振りかざすよ?」
「俺はね、理沙ちゃんがいいの。それに『幼馴染特権』じゃないよ。今度から『彼女特権』だから」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられて、その久しぶりの感触に私は思わずうっとりと目を閉じてしまったのだった。
********
ところで、問題の鍵は一体どこにあるのだろう?
私が悠人に尋ねてみれば、彼は軽く制服の胸ポケットを叩いた。
「鍵はね、ここに入ってるよ」
「どういうこと?」
「実は学校からの帰り道にね、駅の改札口で鍵を拾ったんだ。駅員さんに預けようかなとも思ったんだけれど、鍵に『秋山理沙』って名前と電話番号まで書いてあってびっくりしたよ」
なんと、落とした直後に拾ってもらっていたらしい。運が良いんだか悪いんだか微妙なところだ。
「書いてある番号に電話をかけたら、理沙ちゃんのお母さんに繋がったんだよね。鍵を拾ったことは伝えたんだけれど、『理沙にお灸を据えるために、すぐに見つかったって伝える必要はない。少しは困らせた方がいい』って言われちゃって。心配したよね。ごめんね」
「ううん、私のほうこそありがとう。まさかの時のために書いておいた名前と電話番号が役に立った! すごい!」
「いやいや、俺が言うのもなんだけど、鍵に名前と電話番号を書くのは本当に危ないからもうやめてね」
住所を書いていないから大丈夫かなと思ったけれど、そういう問題じゃなかったらしい。うーん、じゃあ鍵を落とした時にどうやって本人確認してもらえるんだろう。ああ、だからそもそも落とすなって話なのか。
そこで私は気がついた。
「え、それじゃあさっきまでの占いは、鍵探しに全然関係なかったってこと?」
「むしろ、なんであれでちゃんとした占いができるって信じたのか不思議だよ。裏返していてもカードの絵柄がわかるのに」
私のツッコミに、悠人がおかしくてたまらないといった様子で笑った。
「表に返す前に何の絵柄かわかっていたの?」
「うん。テレホンカードは、それぞれ裏面のバーコードや品名が違うからね。そもそも腕のいいマジシャンなら、自分の狙い通りのカードを相手にひかせることだってできるし」
「えー、じゃあデタラメのイカサマ?」
「最初から占い自体はデタラメ。でもね、理沙ちゃんとならどんなことでだって笑っておしゃべりできるのは本当。だから、カードは完全にアトランダムで引いてもらったんだよ。それっぽかったでしょ」
悠人と一緒にめくったカードのことを振り返ってみる。確かにどのカードを見ても、悠人と過ごしてきたことを思い出した。結局、相手のことを想う気持ちがあれば、カードの絵柄どころか占いが本物か偽物かなんて、関係ないのかもしれない。
と、その時、玄関からバタバタと足音が聞こえてきた。
「ただいま。悠人、理沙ちゃんが来てるんだって? 理沙ちゃんのお母さんから電話をもらったわよ。ちゃんと、冷蔵庫のケーキ、おやつに出してる? ……って、え、どうしたの? 理沙ちゃん泣いてるの? 悠人、あんたまさか、理沙ちゃんに……。なんてことを! あんたがそういう人間だったなんて思わなかったわ! 最低! 変態!」
「いや、違う、完全に誤解……」
「女の子を泣かせて、誤解もへったくれもあるか!」
「俺の話、聞いて!」
そういや、私、途中でちょっと泣いたんだっけ。そのせいで目の周りが赤かったのが誤解を招いてしまったらしい。賑やかで優しい悠人のお母さんを見て、私は思わず吹き出した。
少しだけ回り道をしたけれど、また今日から昔みたいに過ごせるね。これからまたよろしくね。
家の鍵を失くしたので幼馴染に鍵のありかを占ってもらったら、諦めていた初恋が成就した。 石河 翠 @ishikawamidori
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