第30話 転生者。

 レストラン、「ねこや」を出た時にはもう日が随分と傾いていた。

 そのあとはまた商店街をまわって、池のベンチで少し休んで。

 お料理のことを少し考えてたら。


「ねえセリーヌ。まだ料理のことを考えてるの?」


「ああ、ごめんなさいギディオン様。ついつい他のメニューのことも考えてしまって」


「謝らなくていいよ。私はセリーヌが作ってくれる料理はほんと楽しみで、好きだからね」


 そうあたしの目を覗き込むギディオン様。


「それにね。今日の出来事で確信したこともあるんだ」


 え?


「タカスギ家のご先祖様はね、大昔に異世界からやってきた人だったんだよ」


 ああ、やっぱり。


「って言うかこのベルクマールが公国としてあった時代はね、異世界からの転移者や転生者がたくさんいたって話なんだ」


「え??」


「うちの家系にしたってそうさ。元々の勇者も、大予言者だった公主も、異世界、それも日本って言う国の記憶を持って生まれた転生者だったっていう言い伝えもあるんだよ」


「それ!! ほんとですか!!?」


「はは。嘘なんかつかないよ。だって、君もそうじゃないのかい? 君の作るオムライスもハンバーグも、そんな異世界の料理だよね?」


 あああああ・・・


「あたしがそんな転生者だって話したら、ギディオン様に変だと思われちゃうと思ってました……。だから、言い出せなくって……」


「やっぱり君には異世界の記憶があるんだね。はは。変だなんてとんでもないよ。私たちのご先祖様もそうだったんだから、私がそんなふうに思うわけないから安心して」


 心の壁が溶ける。

 今までどうしても言い出せなかったあたしの秘密。

 そんなわだかまりがすーっと溶けていくようで。


 この人には、あたしの全部をわかってもらいたい。


 あたしは記憶を取り戻したあの日のこと。そこからの全てを順番にギディオン様に話した。

「そうか。そうだったんだね」

 優しいお顔でそう相槌を打ちながら話を聞いてくれるギディオン様に。

 やっぱり、この人を好きで、好きになって良かった。そう思った。



 ♢ ♢ ♢


 お部屋に帰ってお夕食を頂いて、お風呂にゆっくりと入って。


 なんだかいろんなことがあって心がざわついている。


 それにしても、ご先祖様も転生者だったなんて。なんだか不思議。


 っていうかほんともう何千年も前の出来事だよね初代の勇者様の時代だなんて。

 そんな年代が離れた今と昔におんなじ年代の日本から転生だなんてちょっと理解が追いつかないけれど。まあ考えてもしょうがない。

 時間の流れが違うんだろうって納得するしかないよね?


 ただ、歴史上の人物としか思えてなかったご先祖様にすっごく親近感を覚えて。



 ギディオン様にはあたしの味付け魔法のことも話した。

 そこを秘密にしてもしょうがないしね?


「ああ、だから君の作ったドーナツを食べると元気になったんだ。納得したよ」


 そう笑って仰ってくれたギディオン様。


 ふふ。

 もう遠慮はいらないから、今度はどんなお味のお料理を作ってあげようかな。

 そう考えるのがすごく楽しくて、嬉しかった。


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