第31話 愛しています。

 ベルクマール領はかつて大公国として興り、その後、聖王国と名を変えそして今では帝国の一部、一地方、ベルクマール領となっている。


 長い歴史の中で帝国はその政治形態を何度か変えている。

 統一した初期の頃は独裁色も強かったらしいけれど、その後皇帝の専制から数人の執政官による合議制へと移行し、今ではより民主的な方法で選ばれた護民官による議会制となっている。

 皇帝は君臨するけれど基本的な政治は議会に任せている、といったところ。

 それでも、あまりにも大きすぎる版図を一つの政治機構で統治しているといずれ破綻する、そう考えた当時の皇帝が各地方に高度な自治権を与えたのがきっかけで、多くの独立した小国家が生まれ。

 今の帝国は帝国というのは名ばかりで、実質連邦国家といったふう。

 皇帝は、連邦国家の大統領的な権限をもっているって感じ?

 皇位の継承は基本世襲。基本は現皇帝の指名によって次代の皇帝が決まる。


 ベルクマール大公家はそんな中でも皇室のスペアとして代々血を保ってきた歴史があった。


 そんな特殊な大公家が興した大公国は現在のような小国が生まれるに至った経緯とは違い、古くからある国だったこと。

 帝国皇室と大公家は長く血縁関係を繋いできたこと。

 力をつけた大公国が帝国になり変わる危険を帝国重臣らが持ち始めたこと。

 などを理由に、当時の大公がベルクマール聖王国を解体して帝国の一部に編入する道を選んだのが数百年ほど前。

 結局大公は現在の帝国の舵取りをする重臣として皇帝陛下に仕えている。

 それでもこの地の人々は、元大公国であったころの誇りを持ち続け、今に至っているのだという話だった。


「あたし、ここにこれて良かったです」


 ベルクマールの街並みを見て周り、人々と触れあって。

 そんな気持ちが素直に出てきたあたし。


「ありがとうございますギディオン様。この街に来れたこと、一生の記念になりそうです」


 ギディオン様を見上げそう言って、彼の胸にコツンと頭をつける。

 帰りの馬車の中で隣り合って座って。

 ちょっと名残惜しく感傷に浸ってたせいもあったかもだけど、なんとなく彼に甘えてみたくなって。


「うん。君にベルクマールを見せることができて良かった。ここは私の故郷だからね。君にも好きになってもらいたかったんだ」


 そう言ってあたしのほおに触れるギディオン様。


 好きだ。本当に大好きだ。

 あたしはこの人が好き。


 惚れっぽいのかな。あたしって。

 ううん、でも、それでも。

 今思えばパトリック様に恋をしている頃の自分って、恋に恋しているような状態だったのかもしれないなって、そうも思う。

 自分が好きだって気持ちが大きくて、パトリック様の気持ちを考えたことなんかなかった。

 いつか、振り向いてくれるはず。

 そんなふうに思っていただけだったから。


 今は、違う。


 ギディオン様のことをもっと知りたい。

 彼の心をもっとちゃんと感じたい。


 だから……。



 あたしのことをじっと見つめ。

 ゆっくりとお顔を近づけるギディオン様。


 あたしはそっと瞳を閉じる。


 ほおに触れる指が、とても優しくて、心地よくって。


 そのままあたしは彼を受け入れた。


 この先、何があろうとも。あたしは彼から離れない。

 彼からは絶対に逃げたりしない。


 そう心から思えた。


 愛しています、ギディオン様。

 何があってもあなたはあたしの帰る場所。


 だから……。




     FIN

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「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです! 友坂 悠 @tomoneko299

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