告白したら何故か面接が始まった
マノイ
本編
コンコン
「どうぞ」
「失礼します」
文芸部の部室の扉をノックすると中から声が聞こえて来たので恐る恐る中に入った。
中には一組の机と椅子が置かれていて、その椅子に一人の女子が座っていた。
クラスメイトの
眼鏡をかけた知的美人さんで、僕が告白した相手だ。
『坂巻さん、僕と付き合わない?』
こんな感じで軽く告白したのが今日お昼の事。
『それじゃあ放課後、文芸部の部室に来て』
坂巻さんは告白に答えることなく、何故か文芸部の部室に来るように言って来たんだ。
そして今に至る。
机を挟んで坂巻さんの反対側にもう一つ椅子が置かれていて、そこが僕の席なのだろう。
というかこれ、面接みたいな配置だな。
「どうぞお座りください」
面接みたいな、じゃなくて面接だこれ。
坂巻さんって普段はこんな堅苦しい話し方をするタイプじゃなくて、フランクで明るく話しかけてくれる。だからこれは面接官の演技をしているのだろう。
おふざけやいたずらが好きだからこんなことをしているのかな。
面白そうだからノッてみよう。
「よろしくお願いします」
高校の面接の時のことをどうにか思い出してマナー通りに席に座った。
「それでは志望動機を教えてください」
志望動機。
この場合は坂巻さんと付き合いたい動機のことになるのかな。
「高校二年生の時に同じクラスになった坂巻さんは眼鏡が似合う可愛い女性で一目惚れしました。彼女は僕を見つけるといつもいたずらを仕掛けて来るのですが、困ると同時にとても楽しくて、今度は何をしてくれるのかなって毎日楽しみにしてました。そんなある日、僕の前ではふざけた態度しかとらない坂巻さんがとても真剣な表情で勉強をしているのを図書館で見かけて、その姿がとても美しくて胸の高鳴りが止まらず、どうしようもないくらい好きになったことを自覚しました。そのため仲の良いだけの関係では物足りなくなり、一歩関係を進みたくて告白しました」
こうしてしっかりと気持ちを言葉にすると改めて自分が坂巻さんを好きだってことを自覚する。もちろん、自覚するしない以前に滅茶苦茶恥ずかしいけれどね。
「…………」
そしてそれは坂巻さんも同じだったようだ。
僕の答えを聞き終えて、真っ赤になって呆けたようにしている。
ここまではっきりと言われるとは思ってなかったのかな。
今回はいたずらを返り討ちに出来たみたい。
坂巻さんったら今日僕のためにお弁当を作って来たんだよなんて言って超激辛料理を食べさせようとしたんだよ。酷いと思わない?
「あの……」
「!?」
フリーズが長くて夢でも視ているかのようにぼぉっとしていたから声を掛けたら慌ててる。
う~ん、可愛い。
「で、では次にあなたの強みを教えてください」
まだ続けるんだ。
ここでの強みっていうのはもちろん付き合った場合の事だよね。
坂巻さんにとってのメリットってことにもなるのかな。
「坂巻さんを幸せに出来ます」
「ふぇっ!?」
「いたずらしたくなっても喜んで楽しく受け止めます。それにわざわざいたずらしなくても傍にいます」
「なっ……! き、気付いて……」
彼女が僕にいたずらする理由は、僕に話しかけるきっかけ作りだった。
そのことに最近気が付いたんだ。
その視点で彼女を見ると可愛くてたまらない。
いたずらされるのが嬉しくってたまらないんだ。
「これまで坂巻さんと一緒の時間を過ごして楽しく笑い合えるようになった僕だからこそ、一緒に幸せになれます。それこそが僕の最大の強みです」
シンプルに『相性』で済む話かもしれないけれど、それだとつまらないから少しだけ言い方を変えてみた。
「…………」
また坂巻さんが夢見心地な感じになっちゃった。
この感じは正解を答えられたってことで良いのかな。
「れ、恋愛をするにあたって、何をやりたいか希望はありますか?」
どうやら今回は僕が声をかける前に復帰できたようだ。
何をやりたいか、か。
「これまでのように楽しく笑い合いたいです。そして、手を繋いでデートしたいです」
「え?」
あれ、おかしいな。
どうしてそこで驚くのだろう。
恋人になるのだからデートをしたいって希望は普通だと思うんだけど。
「…………」
「…………?」
何故か彼女は黙ってしまい、更に顔がまた赤くなってゆく。
人ってこんなに顔が赤くなるんだ。
倒れてしまわないか心配だ。
「せ、せせ、せいこぅぃは……」
あ~そういうことを聞きたくて質問したんだ。
察しが悪くてごめん。
でも察せられたとしても答えに困る。
「僕にとって坂巻さんはとても魅力的な女性です。だから当然そういうことをしたい気持ちはあります。でも、それもいつもみたいに楽しく流れでやりたいですね」
「…………うん」
普段から変にそういうことを意識するんじゃなくて、大好きで楽しくて気持ちが高ぶったから自然にそういう流れになる。それが理想かな。好きな人と一緒だと思うとどうしてもえっちぃことを考えちゃうかもしれないけれど、坂巻さんが相手ならお互いに同じタイミングでそういう気持ちに切り替わりそうな気がする。
だから焦るつもりも、強くそう言うことを意識するつもりも無い。
今日の坂巻さんを見てるとそういう流れが早く来ちゃいそうな気もするけど。
「最後に何か質問はありますか?」
「坂巻さんは僕のことをどう思ってますか?」
どうだ、ノータイムで質問してやったぞ。
絶対に最後にこの質問がくると思ってたから、面接しながら準備してたんだ。
「中学の頃、文化祭実行委員で一緒になった時から好きでした」
「え!? そんなに前から!?」
「お話しすると楽しくて、とても真面目で、でも恥ずかしくてあまり話が出来なかった。眼鏡が好きって聞いたから眼鏡をかけるようになった。一緒のクラスになったら頑張って話しかけようって思っていて、高二でようやく同じクラスになったけれどやっぱり恥ずかしくて声をかけられなくて、文化祭実行委員の時に友達にいたずらされて楽しんでいた姿を思い出して、真似したら喜んでくれるかもって思って勇気を出した。ずっと……ずっとずっと好きでした」
坂巻さんの気持ちが分かった気がする。
これは恥ずかしい。
本気で好きだって気持ちをちゃんと説明されてぶつけられるのがこんなに照れくさいだなんて。
僕も彼女に負けずに顔が真っ赤になっている。
「…………」
「…………」
お互い気恥ずかしくて沈黙状態になっちゃった。
そうなるとこの小さな部室に二人っきりということを自覚してしまいそうになる。
「い、以上です! お疲れ様でした!」
このまま甘い流れになるんじゃないんだね、残念。
でも彼女が最後まで面接演技を貫こうっていうなら付き合ってあげよう。
「ありがとうございました」
そう言って僕は席を立ち、部屋を出た。
そして考えを巡らせる。
坂巻さんなら次に何をするかって。
うん、きっとアレに違いない。
スマホをポケットから取り出すと、予想通りメッセージが届いていた。
『このたびは、多くの魅力的な女性がいる中で私に告白して頂き、誠にありがとうございました。
厳正なる選考の結果、誠に残念ではございますが今回は採用を見送らせて頂くこととなりました。
ご期待に沿えず大変恐縮ではございますが、ご了承くださいますようお願い申し上げます。
……の今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます』
知ってた。
坂巻さんはこれがやりたかったんだろうね。
彼女は僕に話しかけるためにいたずらを仕掛けているけれど、実はいたずらそのものも好きなんだ。
多分だけど彼女は僕の気持ちにも気が付いていて、いつか告白されるかもしれないと思っていた。そしてその時にこのネタをやろうって決めてたんだ。
真面目な告白にネタで返すなんて普通なら失礼かもしれないけれど、僕らの間ではアリだから。
だって面白いじゃん。
そしてやってみたは良いものの、ネタとはいえ告白を断る形になってしまったので速攻で追加が……来た。
『というのは冗談で』
僕がこのメッセージを見て彼女のスマホに『既読』と表示されるとすぐに。
ガラッ。
部室の中から飛び出して来た。
「大好き!」
「僕もだよ!」
バカップル爆誕である。
告白したら何故か面接が始まった マノイ @aimon36
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