私のではない花束

ただのネコ

前編 送っていない花束

 バレンタインデーに、彼女からのLINEで写真が1枚届いた。

 大きな花束を抱えて、本当に幸せそうに笑う彼女。

 問題は、私には花束を送った覚えが無いってことだ。



 状況を整理しましょう。

 私は当時、タイで働いていました。日本の親会社から、タイの子会社に赴任して工場を円滑に運営したり、技術者として営業活動の補助をするのがお役目。

 営業のK氏から、Skypeでこんなメッセージが届きました。

「彼女欲しい?」

 K氏は日本人だがタイ人と結婚し、タイ生活が20年近いベテラン。以前から、私にも「日本人と結婚してもいいって女の子がいたら紹介してやるよ」と言ってくれていたのです。


 ついにその時が来たか、とモテない私は「欲しいですね」と即答。

 詳しく聞いてみると、相手の女性は取引先の調達部で我が社の担当、つまりK氏にとっては直接会って交渉する相手。日本語は喋れないが英語は大丈夫との事で、タイ語が話せないが英語は何とか使える私ともコミュニケーション可能。1年間カンボジア工場の立ち上げに行って帰ってきた経験もあるので、外国人と結婚して外国に住むのもあり、と私にとって非常に好条件。

 先方も乗り気だったので、トントン拍子にK氏も含めて3人で会食することになりました。


 実際に会ってみると、とても可愛いし話も弾んで好感触。会ったのが2月7日だったので、バレンタインも兼ねてちょっといいプレゼントを用意しておいたのも良かったのかも。

 いきなりお付き合いとまでは行きませんが、Facebookと LINEのアカウントを交換。毎日メッセージのやり取りをして距離を詰めているところで、冒頭の写真が届いた訳です。


 写真の後に、「誰から送られたか分かる?」とのメッセージもついていました。

 私に分かるのは、私からでは無い、ということだけ。

 タイのバレンタインは欧米風なので、カップルでプレゼントを送り合う形。

 可愛くて性格も良い彼女なら、他にアタックしてくる男がいてもおかしくない。

 写真が送られてきた時間は午後3時ごろで、彼女も会社の作業服を着ているので、職場の同僚からだろうか。

 そして写真の中の彼女の、心から幸せそうな笑みは送り主の好意を歓迎しているように見えました。


 会社の誰かに告白されて、その人と付き合うことにしたって事かな。

 そんな推測をしながらも、私は「分からない。誰から?」と返事をしました。

 推測が真実だと認めたくなくて。


 彼女からの返事はすぐに来ました。

 その内容は……

 

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