第二夜「異世界のお姫様」

宮殿のふかふかのベッドの上で、ふわふわの羽毛の枕を抱いて寝ていたはずなのに。


 わたしは、いま。

 寝間着のまんま、お城の庭の小道に立っている。


 前を見ると、小道はふたつに別れていて、矢印のついた道しるべが立っている。で、こう書いてあるの。


「フィリップ王子はこっち」

「アダム王子はあっち」


 わたしは将来、王族のお家のお嫁さんになることが決まっている。

 十二歳の誕生日を迎える明日、どちらの王子様のいいなずけになるか、決めなくてはならないの。


 フィリップ王子は、「わが王族はお金持ちなので、シャーロット姫を一番幸せにできます」と言うし。


 アダム王子は、「姫の美貌と私の美形なら、きっと玉のような可愛い跡継ぎに恵まれますよ」と言うの。


 遅ればせながら、シャーロットとはわたしのことですわ。


 わたしには、生まれる前の記憶がうっすらとありますの。こことは別の世界にいて、そこではOLをしてましたの。

 超お金持ちと結婚した友だちが羨ましかったし、イケメンと結婚した、別の友だちを妬んだこともありましたわね。


 あら。いつの間にやら、道しるべの横に、子豚さんがいらっしゃるわ。

「ねえ子豚さん、ここはどこか、ご存じかしら? あなたはどなた? わたしの名前はシャーロットよ。」


「こんばんは。ここは、シャーロットの夢の中だよ。ぼくは、えらぶー。迷っている人とお話するのが、ぼくの役目。」


「あらそう・・・あなたは豚さんなのに、どうして人間の夢に出てくるのかしら?」

「ぼくは、夢の中を旅して、大切な人を探しているんだ。」


「そうでしたの。えーと、先ほど、迷っている人とお話する、とおっしゃいましたよね? どちらがいいか、えらぶーさんが決めてくださるの?」


「ううん、ぼくは決めないよ。」


「それは困りましたわ。わたくし一人ではとても決められませんもの。」

「そうかな?」

「お二方ともいい方だし。」 

「そう。・・・じゃあ、目をつぶってごらん。」

「えーと、こうかしら?」

「そうそう。で、頭の中に何か浮かんだ?」


わたしの頭の中に、ぽっかり白い雲が浮かびましたわ。


「じゃあ、決まったね。」

「え、いったいどういうことですの?」

「もっとワガママでもいいってこと。あ、じゅうぶんわがままそうだけど。おやすみ。」

「まあ、失礼ね! お待ちになって。こんな暗くて寂しい場所では、わたしは眠れませんわ。」




 ・・・あら、ここは?

 白いレースのカーテンに囲われたベッドの上。わたしのお部屋ね。戻れてよかったわ。

 子豚さん、どこにもいないわね。そうよね、夢だったのよね。

 今までも寝ていたようですが、また眠くなってきましたわ。




 ・・・ここは、また夢の中?


 お城のそばにある牧場。目の前にはワンピース姿の女の子。

 これは・・・そう。

 八歳のわたしよ。その隣には、栗色の髪と瞳の少年。この牧場の子。

 二人とも楽しそうに笑っていますわ・・・ええ、楽しかったわ。


 お城の外に出かけると、たまにその子にお目にかかりますの。今ではすっかり立派な羊飼いになられて。

 目が合うと、あの頃と変わらない笑顔で手を振ってくれますのよ。


 ああ。あの笑顔をずっと見ていられたら、どんなに幸せかしら。

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