妖姫の紗々姫は、危機管理ができていない。
蘇 陶華
第1話 紗々姫に、辞職を願い出るには、勇気がいる。
「危機一髪!」
日に何度ある事か、僕は、もう、体を張る事が嫌だった。天子様の一人娘の紗々姫様は、大きな声では、言えないけど、妖の姫になってしまった。そもそも、天子様の子供として、生まれた時は、紛れもない人間の赤子だったけど、朝廷の権力争いに巻き込まれ、天子様を抱き込もうとする勢力が、少しずつ、紗々姫様に蛟の精を垂らし込んで行った。朝廷を二分する勢力闘争。僧侶ともあろうものが、紗々姫様を妖にしてしまったせいで、僕は、彼女のお供が苦痛になっていた。知り合った時は、まだ、まともだったと思う。
「かくれんぼうしよう!」
紗々姫様は、かくれんぼうが大好きだったけど、僕は、回数を重ねる事に、命の恐怖さえ感じる様になっていた。
「どこで、かくれんぼうしましょうか?」
「うん・・・そうだな」
僕は、生唾を飲み込んだ。
「三華の塔」
やっぱり。朝廷の妖物が詰め込まれた三華の塔は、みんな、怖がって行きたがらない。紗々姫様のお気に入りの遊び場で、夜な夜な、あらゆる声が聞こえる。みんなが、恐ろしがる三華の塔は、後に、大陸から来た魔導師、瑠璃光に破壊されるのだが、その時の僕には、そら恐ろしい建物だった。
「辞めましょうよ」
僕は、体を張って断った。
「もう、あそこで、かくれんぼうするなら、もう、お付き者は、辞めます」
「おや・・辞めるというのかい?」
時折、紗々姫様の目が、怖い時がある。
「無事に家に帰れるといいなぁ。百鬼夜行がると聞いているぞ」
「いや・・・あの、今日は、かくれんぼうは、辞めた方がいいかな?と」
「お前が、鬼ぞ!」
高笑いしながら、紗々姫様は、三華の塔に逃げ込む。
「いやぁ・・・・」
僕は、口から心臓が飛び出る思いで、かくれんぼうを始める。どこかを探すなんて、できない。何かを啜る音や、血の匂い、大きな目玉が、見つめる空間を腰を抜かしながら、這っていく。
「あ・・・あの。ぼぼく」
僕は、もう、へとへとだった。
「うぎゃ・・・」
悲鳴が上がり、生臭い音と共に、僕の背中に何かが、降ってきた。危うく這って、それから、這い出すと、僕は、二度驚いた。
「危機一髪だったな」
笑いを堪えながら、紗々姫様が、顔を覗かせる。
「な・・・なんですか?これは?」
「そうだった」
僕の背中に落ちてきたのは、最近、新しく入ったという紗々姫様の侍従だった。最近、見かけないと思ったら、こんな所に居たのか?息も絶え絶えで、かなりやつれていた。
「姫様酷いですよ・・・いつまで、立っても、探しに来ないから」
聞くと、僕がかくれんぼうを嫌がるので、新しく来た侍従とこの三華の塔で、始めたらしいが、なかなか、見つからない侍従を置いて、紗々姫は、寝所に帰っていったらしい。それが、ほんの3日前だった。
「ほう・・・そうであった」
紗々姫様は、悪びれず、笑っていた。
「ここで、かくれんぼうをしてもらって良かったな。見つからなければ、こいつらの餌になる所であった」
紗々姫の方には、大きな顎を持つ、蛟が、大きな目を光らせて、こちらを向いていた。
「ヒェ!」
「勝手に、辞めるなんて、言わない事だな」
三華の塔より、紗々姫様が、怖い。危機一髪なんて、僕にとっては、日々の事。無事に辞める事ができるのは、いつなのでしょうか?誰か、紗々姫様を娶ってください。
妖姫の紗々姫は、危機管理ができていない。 蘇 陶華 @sotouka
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