花の魔法(旧)
雨世界
1 愛によって守られる。
花の魔法
愛によって守られる。
「花。あなたに魔法をかけてあげる」
「魔法?」
「うん。魔法。幸せになれる魔法」
「そんな魔法があるの?」
驚いて(目を丸くして)花は言う。
「あるよ。それを今から花にかけてあげる。だから大丈夫。花は絶対に『幸せ』になれるよ」
にっこりと笑ってお母さんは言った。
「花。目を閉じて」
「うん」花は言う通りに目をつぶった。
お母さんは床の上に膝をついて(まるで祈るような姿勢になって)ぎゅっと花の小さな体を抱きしめる。しっかりと。花が痛いと感じないように気をつけながら。
まるで『目に見えないこの世界にある怖い、恐ろしい、なにか』から花を守るようにして。
「あったかい」
目を閉じたまま花は言った。
「愛してる」
お母さんは言った。
十年後。
「花。どうかしたの? あなた泣いてるよ?」
目を覚ました花は自分の頬を指でなぞる。そこには確かに涙のあとがあった。
視界の中はすべてが青色だった。その青色の中には福ちゃんがいて心配そうな顔で、じっと眼鏡越しに美しい二つの瞳で花を見ている。花は古い伝統ある学校の校舎の屋上に花模様のシーツをひいて、友達の福ちゃんと一緒にお昼休みにその上で寝っ転がって空を見ていた。そのままいつのまにか眠ってしまっていたようだった。
「なにか嫌なことでもあったの? だったら私に話してみてよ」福がいう。
「別になにもないよ」花は言う。
「さみしいこと言わないでよ。ちゃんと言ってよ。友達でしょ?」と唇をとがらせながら福はいう。
「本当になにでもないよ」花は言う。
「本当かな?」
そう言いながら、福はまた花のとなりで横になった。
「ねえ。福ちゃん」
「なに? 花」
「魔法って信じる?」
からっぽの空を見ながら花は言った。
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