第57話ダフネス男爵家長男side

 俺の家は少し複雑だ。

 父さんと母さん、俺と妹、そして異母姉。


 姉は父さんの最初の奥さんとの間にできた子供だ。


 名前はエリカ。


 名は体を表すというが、その通りの美人。

 俺は姉と10歳の差がある。親しく話したことは無い。というか、姉と話すと母さんの機嫌が悪くなるから。

 継子虐め?ってほど酷くはないけど、子供心に姉が家族の中で除け者にされていたのは知ってた。


 母さんは姉を嫌ってる。


 先妻の子だから?

 それとも、父さんを取られるのが嫌だから?


 恐らく両方だろう。



 俺が10歳の時に姉は居なくなった。

 使用人たちがコソコソ話しているのを聞いた。

 縁談が嫌で恋人と駆け落ちしたって。


「貴族の娘が平民になんてなれっこない!どうせ泣いて戻って来るよ!」


 母さんは口汚く罵るけど、俺はそうは思わなかった。


「は!駆け落ち相手と別れたっていうじゃないの。直ぐに戻って来るよ!!」


 姉が帰って来ることは無かった。




 しがない男爵家の長男に生まれたけど、跡取りは異母姉だった。

 それが急遽、繰り上げで俺が跡取りに選ばれた。


 想像もしていなかった事態に驚いた。


 母さんとじいちゃんは喜んでるけどさ。

 うちの領地って平凡なんだよ。

 可もなく不可もなし。


 俺としては冒険者か軍隊を希望してたのに。

 憂鬱だ。






 ドン!

 机の上に置かれた参考書の山。

 雪崩が起きそうだ。


 家庭教師を付けられて朝から晩まで勉強。

 まじかよ……。


 寝る暇を惜しんで勉強しても、教師は褒めてはくれない。

 それどころか、怠けていると説教された。


 やる気なんて起きるか!




 王立学園に行かされた。

 俺は行きたくなかったのに!!


 教師の目を盗んでサボるのが俺の日課。

 貴族の坊ちゃんお嬢ちゃんがうじゃうじゃ。

 うわぁー、みんなキラキラしてる! こんな所で勉強しろとか……地獄だな。


 母さんは本気で俺がこの学校でやっていけると思っているのか?

 頭大丈夫か?


 どう考えても無理だろ!


 授業にだってついていけない。

 マナーだって付け焼刃だ。

 どうしても覚えられなかった。

 元々、俺はそんなに頭はよくない。だから父さんも俺を将来平民の身分にさせようとしてたんだ。平民なら自由に生きられる。ま、母さんが聞けば卒倒もんだろうが。


 はぁ~~~。


 めんどくさい。









「ルード、婚約者が決まったわよ」


「母さん、何寝ぼけてんの?それともボケた?」


「お黙りなさい!……あんたが不甲斐ないから見つけてきてあげたのよ!!」


「へ~~~。それはどうも。で、どこの令嬢?相手の家を借金漬けにして売られてきたってクチだろ?」


「黙りなさい!!!」


 あ、当たった。

 大方、じいちゃんの仕業だろう。

 高利貸しのじいちゃんは金利を高く設定はしてない。厳しい取り立てもない。その分、相手に借金を増やさせるのが異様に上手い。あれは天才だよ。


「伯爵令嬢よ!こんな良い縁組もう二度とないわ!!」


 まるで敵の大将首を取ったかのようなはしゃぎっぷりに引いた。


 ただし、この婚約は仕組まれた物だった。

 じいちゃんに、じゃない。もっと上の人にだ。

 たかだか男爵家に?と思うかもしれないが、そこには明確な理由があったらしい。


 それを知ったのは妹がポカをやらかして家に帰って来た時だ。

 妙に冷静だった。表情は心配そうにしていたが声が違う。心配そうに演じてると感じた。これは俺の気のせいじゃないだろう。


 俺の婚約者は何者だ?

 


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