第53話フィールド女伯爵side
「フィールド女伯爵様」
「エリカ、いらっしゃい。待っていたわ」
「今日はお招きくださってありがとうございます」
「そんな堅苦しい挨拶はいいわ。今は二人きりなのだから。お婆様と呼んでちょうだい」
「はい、お婆様」
懐かしいですね。
エリカは娘のリンスレットによく似ています。
あの子もエリカのように笑っていました。
表だって名乗る事が出来ない孫ですが、私は手放しません。
あの日、エリカを見つけたのは偶然でした。
古い友人の見舞いの帰り、お腹の大きな女性の横顔がなんてことでしょう。娘に瓜二つだったのです。思った通り、その女性こそが探し求めていた私の孫娘。娘と別れてから二十年以上が経ちます。
最初は、エリカを養女にして伯爵の爵位を与えたかった。ですが、彼女は嫌がりました。
理由を幾つか告げていましたが、最大の理由はウォーカー侯爵家でしょう。
五大侯爵家に目を付けられているのです。
平民なら多少の目こぼしはしてくださるでしょう。貴族でも目の前に現れなければスルーしてくださるでしょう。けれど、女伯爵となると屋敷に籠りっぱなしはできません。それを危惧していました。
「それと、もしもラシードの記憶が戻ったらと思うと……」
言葉を濁すエリカでしたが、言いたいことは解ります。
エリカの恋人であり、子供の父親。
今は、マロウ子爵家の入婿殿。
彼の妻、マロウ子爵令嬢は夫を熱愛していると有名ですが、肝心の夫の方はというと……お世辞にも妻を愛しんでいるとは思えない態度でした。それでも邪険にしている訳でも蔑ろにしている訳でもありません。妻の熱のこもった目に比べれば夫は冷ややかに見つめている、といった感じです。
エリカの恋人だった頃はそんな事はなかったそうです。
確かに、“もしも”に備える必要はありそうですね。
私がエリカを後継者にするのを諦めたのはそういった経緯があったからでした。
曾孫を養子に迎え、今はこの子に跡取り教育を施す日々。
充実感を感じます。
エリカは隣国の商人と結婚しました。
相手には全て話しています。
それでもエリカを妻に、と望んでくれました。好青年で、少しだけ義兄だった人に似ています。
その後、エリカは男子にも恵まれました。息子三名と娘一人を産み、夫と共に盛り立てた商会は十数年後には隣国一の大商会にまで成長した時は驚きました。
そういえば、最近、元義兄の体調が悪いと聞きました。
平民となった義兄一家は、その後、南にある辺境伯領に移住しました。そこで元義兄は教師をしています。義兄の子供達や孫達は辺境伯家の家臣としてその才覚を発揮しているとか。私は久しぶりに元義兄に手紙を出すことにしました。
あの時、元義兄に手紙を出さなければ今の幸せはありません。
万感の思いを込めて。
拝啓 お義兄様へ――――
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