第46話主席裁判官side

 

 知らなかった。

 婿とはいえ娘の夫になるのだから下調べもしていた。


 伯爵家の次男で。

 外務大臣の息子で。

 容姿端麗で。

 成績だって悪くなかった。


「因みに教えておいてやるが、お前が愛人にしている女は、お前が婿に望んだクズ男と一時期関係があったらしい。時期的に息子を孕んだ頃のようだ。そこの息子二人、一度親子鑑定しておいた方が良いぞ。まぁ、ここから出られたらの話だがな」


 次から次へと知らされる事実に儂はもう何が何やら訳が分からず、混乱していた。

 そんなはずはないと言い続けていた気がする。だが兄上は取り合ってくれなかった。


 儂に会いに来たのは妻の手紙があったからだと言う。


 最後通牒のような手紙だったと語る兄上の目は死んだ魚のようだった。


「お前の孫娘エリカが伯爵家を継ぐことは無い。同情する余地は十分あるが、あの子自身は微妙な立場だ。ウォーカー侯爵家を敵に回しているからな。本人も反省して謝罪しているがそれですむ話じゃない。被害者でもあるが加害者でもある。それに今から伯爵家の跡取り教育を施しても遅すぎる。だからお前の曾孫が跡継ぎに決定した。父親は元伯爵子息だ。血筋的に問題はない。フィールド女伯爵の養子縁組も既に交わしている。その子が成人する前に女伯爵に何かあれば爵位と財産は一時期国預かりになり、王家が責任をもってその子の後見人になると約束してくださっている。ありがたいことだ」


 兄上はそれだけ言って、地下牢を後にした。


 それが兄と交わした最後の会話だった。





 数日後、看守から実家の子爵家が爵位を返上し、迷惑料として財産の大半をフィールド伯爵家に支払った事を聞かされた。

 兄一家は平民となり、王都から去ったらしい。

 兄上は馬鹿だ。貴族が平民になって生きていける訳がない!どこかで野垂れ死にするのがオチだ!儂なら絶対に爵位は手放さん!!



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