第45話主席裁判官side

「やってくれたな、ドディ」


「兄上?」


「兄と呼ぶな!愚か者!!」


「な!?」


「自分が何をしでかしたのか分かっているのか!!」


「わ、賄賂の件は儂だけじゃない!」


「誰が賄賂の話をしている!?」


「え?違うのか?儂はてっきり……」


「……賄賂を受け取ったくらいで貴族が地下牢に入れられるもの!」


「なら何故……?」


「お前がそこにいる三人と結託してフィールド伯爵家を乗っ取る計画を立てていたからだ!!」


「はぁ!?」


 兄上は何を言っているんだ?

 儂が乗っ取り?伯爵家を?


「覚えがないという顔だな。まったく。婿の分際で伯爵家の嫡流の血を絶やそうと目論んだだけでなく自分の息子を跡取りにしようと企むことを乗っ取りと言わずに何と言うんだ!?」


「儂は乗っ取りなど企んでません!伯爵家の跡取りは必要だと思って!」


「娘がいるだろう!!」


「その娘は死んでます!」


「孫娘がいる!」


「駆け落ちして行方知れずです!」


「……今は五大侯爵家の一つに保護されている」


「は!?保護?何故?」


「……伯爵家の正当な跡取りだ。当然だろう」


「儂は保護して欲しいとは頼んでいません!」


「保護の命令を出したのは国王陛下だ!文句を言うのなら陛下に言え!!」


「へ、へいかの命令……?何故そんな……」


 陛下が保護を命じた。

 信じられない話だ。幾ら儂の孫娘だからといってわざわざ保護するとは……。


「念のために言っておくが、お前の孫娘だから保護したのではない。だから保護したのだ」


「?……同じことでは?」


「同じではない!お前はだろう!爵位は未だに夫人のものだ!!」


「はぁ~~!?だ、だが儂はずっとフィールド伯爵として……」


「便宜上、そう呼んでいただけだ。『主席裁判官が伯爵の婿で爵位もないとは恰好が付かない』『爵位がないのを部下に馬鹿にされる』と、お前が夫人に言ったから『それなら“伯爵”と呼ばれるようにしましょう』と夫人が受諾したまでだ」


「そ、それでは……儂は伯爵ではないと……?あの時、妻は爵位を儂に譲ったとばかり……」


「バカか!?爵位を赤の他人に譲れるわけないだろう!!」


「……」


「そこに居るお前の息子を名乗る男も同じだ!いい歳して娘と歳の変わらない女を愛人にするとは!恥を知れ!!」


「……」


「それからな、お前が娘の婿にと望んでいた男も捕まったぞ。お前と同じだ。婿入り先の子爵家を乗っ取ろうとして捕まっている。どこまで見る目がないんだ!あんな外面だけ良いクズを婿に迎えようとして!だからあの子は逃げ出したんだ!!」


「……クズ?」


「それも知らなかったのか!?まぁ、当時は上手く誤魔化していたからな。だが、本性を現すのも早かったぞ。女遊びは激しいギャンブル狂い。最悪だ!」


 ……は?

 女遊び?ギャンブル狂い?


 兄上の言っていることが信じられない。

 そんなハズはない!


 否定しようとするも声がでなかった。

 恐ろしい目で睨みつけてくる兄上の気迫で声が出ないのだ。



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