第18話バルティール伯爵side
「どうするんだ?!ラシードとミネルヴァ嬢の婚約を白紙になっただけでも我が家にとっては大損害だというのに!まさか縁を切られるとは!」
「何とかもう一度ミネルヴァ嬢と婚約出来ないのか?!」
「無理だろ!既にウォーカー侯爵家の不興を買ってるんだ!」
「くそ!!ラシードめ!!」
先代が亡くなって以来、寄り付きもしなかった親族連中が好き放題わめいている。
まあ、無理もないか。ウォーカー侯爵家の繋がりを失ったんだ。せめてラシードの養子縁組だけでも解消されていなければ……。いや、どう考えてもラシードが侯爵家に残れる道はない。
「このままだとバルティール伯爵家は終わりだぞ!!」
「落ちぶれていくのを黙って見ているしかないのか?!」
「伯爵家よりも先にこちらが潰れそうだ!将来、ウォーカー侯爵家と縁続きになると踏んで借金をしたのに!」
「お前もか!私も同じだ!」
「こっちだって銀行から融資を受ける際に、侯爵家との繋がりが有ると無いのでは雲泥の差だぞ!」
「私だって!」
「くそ!!」
「どうすればいいんだ!!」
騒ぎ立てる親族達を落ち着かせる。
「お前達!少しは落ち着け!」
だが、そんな私の言葉も彼らには届いていないようだ。
「落ち着いてなどいられるか!!」
「ラシードが問題を起こしたせいでバルティール伯爵家は終わりなんだぞ!」
「ミネルヴァ嬢との婚約が亡くなったんだぞ!」
駄目だ……一度火がついたら収まらない。
「黙れ!!」
私が再び一喝すると漸く静かになった。
「今、騒いでもどうにもならないだろうが!」
私が怒鳴ると親族達は口を噤んだ。私は辺りを見回しながら声を潜めて話し出す。
「取り敢えず、ウォーカー侯爵家に謝罪するのが先だ。今はそれしかないだろう」
親族達は口をへの字にしながらも渋々頷いた。
「侯爵家に連絡をして、都合がつき次第、謝罪に伺うことにしよう。今はそれしか出来ない」
私が溜め息を吐き出しながらそう言うと、親族達は頷く。頷くしかない。他に方法がないのだから。
五日後――
私は妻と長男、そして我が家の顧問弁護士を伴ってウォーカー侯爵家に謝罪に向かった。
前日、ラシードが「僕も謝罪に行く」と言い出したが、当然却下した。
ラシードを連れて行くと余計に話しが拗れる。これ以上、関係が悪化させる訳にはいかない。それを伝えたら、意味が分からないとばかりに食い下がってきた。「僕も謝罪しなければ」「僕は当事者だ!」と言ってくる始末。本当にメンドクサイ奴だ。
誰のせいだと思っている!
乱入されてはたまらない。
私はラシードの部屋に鍵をかけ見張りを3人置いた上で、出発した。
そしてそれは正しかった。
何故なら、怒り心頭の侯爵夫妻が待っていたからだ。
結果から言えば、謝罪は受け入れてもらえなかった。
けれど、慰謝料と賠償金を請求されることはなかった。
侯爵曰く「仮の婚約関係だ。正式な手続きをしている訳ではないので不必要」とのこと。
ただし契約違反を犯しているため、契約書に基づき、ウォーカー侯爵領への立ち入りを禁止。ウォーカー侯爵夫妻とミネルヴァ嬢への接触禁止を言い渡された。もし、これを破った場合は賠償金が発生するとまで言われてしまった。
「万が一ということもある」
そう言われ、テーブルの上に置かれた魔法契約書。
ただの契約書とは訳が違う。
契約は絶対だ。
「何も難しいことではない。約束を守れば済む話だ。そうだろう?」
…………本気なのか?
あぁぁ……侯爵は本気で仰っている。目が本気だ。
ウォーカー侯爵領への立ち入りを禁止。
これはまぁ、なんとかなるだろう。
伯爵家は基本、王都から出ることは滅多にない。他の貴族の領地に招待される事があったとしても通らないで行く方法は幾らでもある。
だが、ウォーカー侯爵夫妻とミネルヴァ嬢への接触禁止。
これはどう考えても無理だ。
茶会や夜会、誰かの主催するサロンやパーティーへ参加すれば高確率で会うだろうし。仕事の都合上どうしても会話することだってある。
実質的に不可能だ。
だが、侯爵の「守れ」という目を見ていると、どうしてもそうしなければならない気がしてくる。
チラリと妻を見ると顔を青くしていた。当然だな。私の顔色も同じようなものだ。
「失礼ながら、ウォーカー侯爵様、それは不可能です」
声を上げたのは長男だった。
「無理だと?」
「はい。不可能です」
「何故?」
「我々は貴族です。社交界というものがございます。また、夜会や茶会も。それらを全て欠席するという事は出来かねます」
よくぞ言った!息子よ!!
「だから?」
「ですから不可能を可能にすることは極めて難しいと申し上げております」
「なるほど。伯爵家はこれから先も今まで通りに社交界に参加するという意志は理解した。ならばこうしよう。社交界で私達を見掛けるのは良いことにしよう」
侯爵は引き下がらない。
長男も何とか食い下がったが無駄だった。
侯爵夫妻はこの件に関しては一切引かなかった。
「縁を切った相手と今まで通りにはいかない。そうだろう?」
侯爵の言葉に、これ以上、食い下がる事は出来ないと悟るしかなかった。
私は侯爵に魔法契約書にサインすることとなった。
物言いたげな妻と長男の視線を受けながら……。
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