第11話初恋と婚約3
「それでどうなさるのですか?」
「陛下は時間稼ぎをなさるつもりだ」
「その時間稼ぎが婚約ですか?」
「そうだ。高位貴族の令嬢を数名婚約者候補に入れることで、近衛騎士団員達が妙な動きをしないように牽制するらしい」
「牽制ですか?王族を守る騎士団を?」
「だからだ。彼等からしたら騎士団長の息女は“自分達の大切なお姫様”だ。そのお姫様の夫が王子。妾妃ではなく正妃にと望むだろうし、下手をすれば第二王子を王太子にと望む可能性だってある。現に第二王子殿下は王太子殿下と比べても劣らない才覚だ。だからこそ陛下は第二王子殿下を王太子殿下の補佐にとお考えなのだが……」
「それが殿下の選んだ女性によってご破算になりそうなんですね」
「その通りだ。しかも殿下の様子ではとても諦めそうにない。陛下もホトホト困り果てていた」
「いっそのこと、臣籍降下なさっては?」
「それが出来るならとっくにしている」
「出来ないのですか?」
「出来なくはないが……王妃殿下がな」
「反対されていると」
「そうだ。まぁ、王妃殿下の気持ちも解る。親としても王妃としても第二王子殿下には王族として留まって欲しいのだろう。言い方は悪いが第二王子殿下はスペアとして完璧だ。万が一、王太子殿下に何かがあった時にすぐにでも代理が立てられる」
身も蓋もない言い方ですが、事実です。
だからこそ、と言うべきでしょうか。第二王子殿下は今の今まで婚約者がいませんでした。王太子殿下の婚約者は五大侯爵家の令嬢。後ろ盾も十分で、ご令嬢本人も大変優秀な方。正妃として問題なく、次期王妃として立派に務めあげられると評判の令嬢です。
だからこそ第二王子殿下は別の意味で難しい立場にいました。
王太子殿下と同母の弟。
王妃殿下の御子。
王太子殿下が「立太子」されているとはいえ、第二王子殿下に「立太子」の可能性がゼロとはいい切れません。
万が一、王太子殿下に何かあれば、第二王子殿下が王太子になる可能性が非常に高いのです。
我が国の相続制度は、長子・男子相続を基本にしています。
ですが絶対という訳ではない。
長子、また跡取りの男子があまりに愚かだったり健康上問題があったりすれば、弟や妹が相続することも十分可能なのです。
現国王陛下は王妃殿下以外に妃を持たなかった。
それでも王妃殿下は二人の王子をご出産なされています。
兄弟仲も良く、互いを支え合っていくだろうと期待されていました。
だからこそ、第二王子殿下の結婚相手は慎重に選ぶ必要があったのです。
嫡出子であり、能力とて王太子殿下と比べて劣るわけでもない。
第二王子殿下の結婚相手によって派閥が出来る事を恐れ、王太子殿下の結婚相手と同じくらい慎重にならなければいけなかった。第二王子殿下の結婚相手が中々決まらなかった背景には、こういった事情もあったのです。
「大丈夫なのでしょうか……」
「分からん。だが何とかするのが陛下や五大侯爵家の務めだ。ミネルヴァが心配することは無い。だが、一応は覚悟をしておいてくれ」
「それは……」
「万が一という事もある」
「はい」
その万が一が起こらない事を祈るばかりです。
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