ショートショート「伏線回収」

 僕は色んなドラマを見るのが大好きだ。特に好きなのが伏線を回収するシーンだ。序盤の不可解な出来事を、終盤に解消するのはとても気持ちがいい。現実にこれが起こればとても面白いだろう。そう考えた僕は不可解な行動を取ることにした。

 まずは勉強をおろそかにしているようなふりをした。今までは真面目に勉強してたが、表向きは勉強をサボるようにした。ただし、人の見てない所で独学で必死に勉強し、東大に合格して、後で皆を驚かせるつもりだ。また、両親に冷たい態度を取るようにもした。僕の町は東京から離れた田舎だ。東大に行くことになれば一人暮らしをすることになるだろう。だからそのとき寂しい思いをしないようにあえて冷たい態度を取っていたと言い、両親に感謝を伝える。そうすれば二人ともビックリしてくれるだろう。そして、付き合っていた彼女に何の前触れもなく別れを告げた。しばらくしてから、実は彼女が本当に自分に一途で、他の誰とも付き合わないのか確認していただけで、本当はずっと君のことが好きだと言い、再び付き合うつもりだ。僕のシナリオはこれで完璧だ。

 しかし、そう上手くはいってくれなかった。独学で勉強したせいで、東大の試験に対応した学力が身につかず、全く点が足りず不合格になった。それどころか滑り止めで受けてた都会の大学も軒並み落ちてしまい、地元の中堅大学に行くことになった。周りから見れば勉強をサボっていたのだから、当然の結果として映ってしまう。そして両親との関係はただ悪くなってしまっただけだった。未だにちゃんと目を見て話せず、リビングには重い空気が流れるだけだ。そして彼女は、他に男ができてしまった。本当のことを打ち明けても、全く聞く耳を持ってもらえなかった。

 どうしてだ?最後には何もかも上手くいくはずだったのに、なんでこんなことになってしまったんだ。僕は不可解に思った。しかし、不可解に思えるということはいつかは解消されるはずだ。この伏線はいつかきっと回収される。そんなことを思い、僕は次のシナリオを考え出した。

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