ショートショート「幸運」
わしが生まれたのはこの地域に大規模な空襲が行われていた時じゃ。わしの父親と母親はわしを、身を挺して守ってくれたんじゃ。おかげでわしは生き延びることができたが、両親は死んでしもうた。その後わしは親戚に育てられたが、あんな激しい空襲のなか生き残れたのは幸運だったと言われたんじゃ。
その後わしは大きくなり、恋人ができた。二人で街を歩いていると、通り魔に襲われたんじゃよ。わしは怪我を負ったが、無事だったんじゃよ。なぜなら彼女が身を挺してわしを守ってくれたんじゃよ。彼女は亡くなってしもうたよ。
そして、親友と飲みに行ったときに、わしは車に轢かれそうになったんじゃが……もうここまで話したら分かるじゃろ?亡くなったのは、わしを身を挺して守った親友の方じゃ。
こうまで何度も死にかけてもわしは生きとる。人は皆、わしを幸運だ、幸運だと言い、わしもそうかもしれんと思ったんじゃ。しかしわしは気づいたんじゃよ。わしが幸運なんじゃなくて、わしがわしの周りの人を不幸にしてるんじゃと。わしは周りの人を不幸にすることで相対的に幸運になり、生きてきたということなんじゃよ。それに気づいたわしはこれ以上周りの人がわしのために不幸にならないよう、こうして山にこもって生活をしているのじゃ。
じゃからこの山で遭難した挙句、熊に襲われそうになって逃げてきたあんたを助けることはできんのじゃ。ほら、もうそこまで熊が来とるのに、あんたはわしを身を挺して守りたくなっとるようじゃの。恨むなら、山の中で熊とわしに遭遇した自分を恨むんじゃの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます