ショートショート「貞子」

 男が惰性で見ていたリビングのテレビに急に砂嵐が走ったのはその時だった。故障かと思い、リモコンのあらゆるボタンを押したが砂嵐はそこにあるままだった。

 砂嵐が突如消えたかと思うと、奇妙な光景がそこに現れた。荒れた草原の中に古井戸が一つある。その井戸から髪の長い女が出てきた。

「来〜る、きっと来る…」

謎の音楽と共にどんどん女はこちらに近づいてきた。そして、テレビからその女は出てきた。這うようにして男に近づいてきた。

「…やめろ、やめてくれ…」

男はつまりそうな声をどうにか出して拒否したがどんどん近づいてきた。

 すると、今度はダイニングにある方のテレビに砂嵐が走り、同じように井戸がそこに映された。男はそれに気付かず、ただ襲われる恐怖で固まっていた。

 しかし次の瞬間、恐怖は疑問に変わった。男の前を女は素通りしたのだった。そしてダイニングに行き、今度はダイニングのテレビに入っていき、そこの井戸に女は消えた。2つのテレビは元通りになった。

 男は呟いた。

「乗り換えとかあるんだ。」

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