ショートショート「豚」

豚。それが僕のあだ名だった。デブだったのはもちろん、生まれつき鼻が悪くて時折フガフガと言っているように聞こえたのもあったからだ。トンカツを食べれば共食いだと言われ、鼻を噛めば豚の菌がつくからあっち行けと言われ、かけっこではいつもビリで馬鹿にされた。しまいには豚は豚小屋にいろと檻に閉じ込められたことすらあった。小さい頃の思い出はそんなのしか残っていない。先生に言っても相手にされないし、親に相談してもお前が悪いと言われるだけ。

 絶望した。この世に自分の味方はいないんだと思った。もう人間みんなが嫌いになった。そして、川に飛び込んだ。これでやっと楽になれると思った。でも、楽にはなれなかった。目を覚ますと見たこともない街にいた。がっかりしたが、僕を助けてくれたお兄さんがとても優しくしてくれて、久々に温かさに触れたようだった。もう家には帰りたくなかったのでお兄さんのもとに住まわせてもらった。流れ着いた街はどこか不思議なところで、自分にとってはとても居心地がよかった。

 人間たちへの恨みを忘れた日は1日もない。そして、この街の素晴らしさを感じなかった日も1日もない。だから今の仕事をしている。この仕事は、自分のことを豚と呼び、いじめてきた人間たちへの復讐と、この街の人への貢献のどちらもできる。そして僕は今日もこいつらを出荷する。

「湯婆婆様、新しい豚です。」

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