第三十九話 思いは口に

俺は戻り、みんなと食事をとって就寝前に久々にゲームをして今日あった情報を整理して空気の入れ替えのために七階廊下寝室前の窓の外を見る。


今日は三つの満月が出ている。


この世界の夜はとても澄んでいる。ビルが並ぶが景色を損なわない配置でよく考えられている。




たまたまかもしれないがそれでもここのホテルは正解だと思った。




「眠れないの?」




エルが俺の横に並んで一緒に夜空を眺める。




「まあね。」


「私も。」


「そういえば今日どうだった?」


「楽しかったよ。巫女と天音とも仲良くなれたしね。」


「それはよかった。」




楽しい世間話をする。でもエルは何か言いたげだった。あの時は少し違う感じがした。




「ねぇ淳也。」




エルの中に何かが映る。そこには学校で自分たちみたいに夜空を見上げる少年と少女がいた。




『じゅ…君と一緒…れて…かったよ。』


(また、なんだろう。)




疑問が浮かぶエル。


「エル?」


「っ。んん。何でもない。」


「そうか。」


「じゃあ、私そろそろ寝るね。」


「あっエル。」


「ん?」


「話したくないならいいけど、抱え込みたくないものを抱え込むならいつでも俺に相談しろよ。その、俺はいつでもエルの味方だからさ。」




目を見開くエル。そして恥ずかしがり頭を抱える俺。

ばっ!俺言うの下手か!?味方なの当たり前だろ!


「淳也。」


「ん?」


エルが近くに寄ってきてひょいひょいと手で呼ぶ。

内緒話か?

俺はエルに耳を寄せた。そうではなく、エルは俺の頬にキスした。


「はぇ?」


「おやすみ淳也君。そしてありがとね。」




エルは明るく誘われてしまうような笑顔を見せてそのまま部屋へ戻っていく。

俺はもう一度空を見る。処理しきれない頭を冷やすために。

夢?




俺もしばらくして部屋に戻り眠る。結局頭から離れず深く眠ることは出来なかった。




次の日


俺らは街を出る準備をする。少しだが異世界樹バックルームツリーについての情報を集めることができたので収穫ありだ。




「淳也く~ん、私も一緒に行きたいよぉ。」




泣きわめいて必死に俺にしがみつく巫女と引きはがそうと頑張る天音。




「私たちは目的地が別なんですから一緒にはいきませんよ。ほら、離れてください巫女様。」


「やだーー!!」




童顔だからといってもう22なんだから駄々をこねないでほしい。




「大変ですね。」


「会社変わるときもこんなだったよ。」


「淳也君も迷惑してるんだから離れてください。」




そう天音が言うとすんなりと離れた。少しは成長した?のかな。




「仕方がない。淳也君が迷惑してるなら離れますよ。」




ぐすっと泣きながら上から目線で語る巫女。




「それじゃあ、ちゃんと生きててくださいよ。」


「わかってるよ。」


「兄ちゃんら、また遊びに来てくれよ。」「俺らと旅先で出会えること楽しみにしてるぜ。」




街の皆が見送りに来てくれた。多少目立ってしまったが、でもこれは嬉しいことなので受け取っておく。




「エル、今度会った時までに奪ったらただじゃおかないんだからね。」


「わかってるよ。でも、100%巫女のものにもさせないけどね。」


「言うようになったね。」


「それじゃあ元気でね。」


「ミナさん達もお元気で。」


「はい。天音さんも修行頑張ってください。」




俺らは別々の街へ進む。こんな世界でちゃんと無事でいられる保証はない。だからこそ生きていることを信じて前へ進む。それだけだ。




「淳也君も元気でね。」


「巫女もな。あんまり天音に迷惑かけんなよ。」




俺は巫女の頭を撫でた。嬉しがっている姿がなんだか動物みたいで可愛い。




「そうだあと一つ。」




巫女は俺の両肩を掴んで自分の方に引っ張り、俺の頬を舐めた。




「っ!?」


「これはおまじないだよ。」




なんのおまじないかは分からないが俺は顔を赤らめ下を向く。


いじられてしまうのではないかと心配になったが




「照れてくれるんだね。嬉しいよ。」


「…どうも。」




エルが可愛く妬んでいる姿を嬉しそうに見つめる巫女。




「本当、モテモテだな。」




なんだかんだで嬉しそうに見守る智一。親のつもりかよと思う。


そして俺らは街を出て次の目的地へ進む。

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