第十一話 仕返し

後の方から女性の声が聞こえた。


振り向くとそこには体長推定176cmの眼帯を付けたワイシャツジーパン姿のクールな女性が立っていた。

名はシュバリゼッテ・ファングという人。



「ぎ、ギルドマスター!」


(え?この人が?確かに普通の女性より気迫があるけどどちらかというと騎士団長をしてそうなイメージがある。)




期待の斜め23度に至った。ギルドマスターはもっとごついおっさんがやるのが異世界の主流である。

と思いこんでいたが最近は男女問わず誰もがどんな仕事でもできる社会が作られている。勝手な考えはもう古いということだ。




「なるほど。なら文句なしだ。どちらが正しいか教えてやるよ!クソガキが!」




ゆうて先輩と俺ら、2歳しか年の差ないんですけどね。



俺ら一行と坂田一行は模擬戦場に出た。観客席がありそこでは色々なハンターが観戦する体勢を取っていた。




「せっかくなんだから盛り上げてくれよ。」


「面白いの期待してるぞ。」


何が期待してるぞーだ。他者の争い事を娯楽に使いやがって。


相手側が手前に出てきた。

坂田岩平とその一味計15人。対するこっちは




「ってあれ?俺しかいないんですけど。」


「頑張れ頑張れ淳也!いけるぞいけるぞ淳也!」


「応援してるよ淳也君!」


「ちょっ!お前ら…」


「大丈夫大丈夫。お前一人でも何とか勝てるよ。」


「死んでもちゃんと埋葬するから安心して。」




サボりたいだけだろ、絶対。これ無事に終わったらあの二人に痛いめあわせてやる。

坂田はこれを見て頭にメキメキと筋が出てきた。



「舐めてるだろ。お前…」



相当お怒りの様子。当たり前だろ。15人相手に対して1人で戦うという完全舐めプレイ。気が乗らない。




「舐めてんのか!?」


「真面目に戦え!」




ほら叩かれた。何もしてないのに罵倒され心ズタズタでもう泣きたいよ。



「それでは坂田チーム15人 蘭チーム1人で試合を開始とします。」


「仲間に見捨てられたか?ドンマイだな蘭。」




そうだけど答えるの面倒なのでそのまま今はスルーする。

さてさてステータスは?




名前:坂田さかだ岩平がんぺい〈28〉男


Lv49 種族:人間 職業:暗殺者 称号:イケメン番長(自称w)オワコン人生乙人間


武器:二本小鉄柱プレス


装備:昭和不良学服


以下省略




その…何というか………微妙。

ステータスもそこまで高くないし、正直配下の方が少し強い。でも対処できる範疇だ。だからあの二人俺に任せたのか。



配下達が一斉に仕掛けてきた。斧使いが俺の頭めがけて振り下ろしてきた。威力はあるが重心がブレて狙った位置にちゃんと力が伝わっていない。だから簡単に受け止められる。


ナイフ使い短刀で短い間に連続で切りつけてきた。 早く確実に急所を狙えているが、一撃に込める力が足りない。だから素手ではじき返せる。


チェンソー振りまわす男は無造作に周囲を気にすることなく斬りかかってきた。危なっかしいし軌道が読みづらい。でも雑で力任せだから余裕で避けられる。


他の配下も一つの技術に特化しすぎて逆に他の支えるための技術が弱い。14人相手にしたが容易に隙が作れるので能力使わなくても流れるように切っただけで倒せる。




「長、気をつけ…て…」


「お、お前ら…貴様ああああ!!!」




何で俺が悪者みたいな雰囲気になっているの?元と言えばお前らが発端だろ?そんな泣ける主人公やられるとこっちが困る。




「俺が…俺がお前を打ち砕く!はあああ!」




両手の二本小鉄柱地面に叩きつけ地割連鎖アースクエイクで遠距離攻撃をしてきた。俺は地面を蹴って前に飛んだが岩平が前にいなかった。




「どこに…」


「うおらぁぁぁぁ!!」




日〇悪質タックルを俺の背後からかましてきた。体重が重く巨大であるため威力も生半可なものではない。大型トラックにはねられた気分だ。



衝撃を受け流すために両手を地面に着けてズリズリ引きずるものの、逆バク転で体勢を立て直す。




「よっと。」


地味に痛いな。一応装甲強化を背中に集中させてなければ背骨にヒビが入っていたかもしれない。長の名は伊達じゃないって事か。

そう考察していると俺の琴線に触れる発言を坂田はした。




「そういやお前、親が問題起こしていたよな。」


(どういうつもりだ。何で淳也の事情を知っている?)


「惨めな生き方してる奴の子はやっぱり惨めなもんだな。同情してやるよ、可哀想だってな。そしてお前の不幸で回りも不幸にしていく。

解るか?今でも誰かを傷つけてるかもしれないことを。お前が不幸の元凶だ!」




単純な挑発だ。でも思い出したくない過去を掘り返されて冷静にはらわたが煮えかえる。




「教えてやるよ。お前は生まれた時から不幸者だってな!」



そう言って坂田は俺を武器でひたすら体を殴り続けた。

今にでも坂田の顔面を殴りたいのに、体が動かない。


観客も坂田のやり方に戸惑いを感じ始めている。




「ちょ、流石に言い過ぎじゃ。」


「やめとけ。」


「止めないでよ…智一、貴方だって友達が目の前で嫌なほど罵倒されて止めたいと思わないの?」


「俺も嫌だよ。でも俺らがここで止めたら淳也を傷つけられかねない。あいつが、あいつ自身で解決しないとあいつ自身が後々辛くなるだけだ。」


「……。」


そうだ。何を過去の出来事を引きずっているんだ。忘れたい出来事だけど忘れなれない出来事。だから忘れずにそれすらも乗り越えないといけない。

でも今乗り越えられていない。だから今この場で乗り越える。


前に立ちふさがる壁が今壊れた。




「これで終わりじゃーー!」




傷だらけになりながらも坂田の武器を大剣で防いだ。




「なっ!」


「一つ教えておいてやりますよ先輩。確かに俺は惨めな生き方をしてるかもしれない。不幸者かもしれない。それでも超えなきゃならない。

それを努力して生きなきゃならない。先輩は…先輩はそれを人生で知ってるかよ!」




その勢いのまま思いっきりはじき返し、坂田を怯ませた。




「先輩はまず、人の痛みを知る所から始めた方がいい。」


冷静に怒り、鬼神斬を0距離で当て後へ吹き飛ばした。

坂田は壁に強く叩きつけられ気絶した。




「勝者、蘭チーム!」


「お…オオオオオ!」




観客席は大盛り上がりした。



「すげーなあんた!」


「心をズタズタにされても立ち向かう精神、実にあっぱれ。」


「さっきは言い過ぎた。ごめんな。」




観客たちも心変わりしたようだ。

ギルドマスターが俺の方に近づいてきた。




「あんた凄いじゃないか。ハンターでもないのにD,Eランクハンター15人をたった一人で倒しきるなんて。」




ギルドマスターは嬉しそうに褒めてくれた。

彼奴らそこまでランク上がっていたのか。


そっちの方が気になった。

エルと智一が俺の迎えに来た。




「淳也なら一人でできると信じてたぜ。」


「ちょっと不安になったけど無事でよかったよ。」


「なんとかな。でも二人とも前もって相談せずに参加しなかったよな?」




俺は圧をかけて死んだ目で言った。




「いや、勝てたからいいじゃないか。」




智一は汗だくだくで目をそらして語る。

エルは何も言わず、目をそらしている。まずいとは思っていたらしい。




「二人、裏に来い。」


「「はい…」」

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