第27話

(さて、倒すのは可能だろうけど...... ここにきたってことは、二人が帰らないと他の部隊がやってきかねない。【催眠】《ヒュプノシス》しかないか......)


「まず、どの程度が戦ってみるか......」 


「アストエルとは私が戦う......」


 アエルが剣をぬく。


「ちょっと!」


「リンはその間に角を折る方法を考えてくれ。 アストエルは元々片方が小さい。 もし長い方の角が短くなれば話もできるかもしれん。 アストエルは冷酷だが、他の魔族よりは話ができた......」


「わかった......」


 アエルは向かっていく。 炎をまとう細い剣でアストエルと斬りあっている。


(二人のもつ剣や装備は魔石でできている。 魔法で強化できるからそうそうやられはしないだろう。 私は角を折る方法を考えよう)


 アエルとケイレスの二人の動きを見ながら、その方法を考える。


(あの固さを砕くほどの衝撃を頭に与えると、死ぬ可能性がある。 打撃や【念力】《サイコキネシス》でへし折るのは難しいな...... 風を収束するか、だめだな。 頭を切り落としかねない。 もっと細く一瞬で......)


 その時、海が視界に入った。



「くっ!」


「あなたはその角にしては強いですわ。 でもただそれだけ......」 


 アストエルとアエルは斬りあいながら話している。


「話を聞いてくれアストエル!」


「昔からあなたはおかしかった。 知られてはいけない魔法を下位魔族に与え、戦いを否定した」


「くっ、お前だって、戦いを望んではなかっただろう」


「そうですわね...... 意味があるとはおもってはいないですわ......」


「なら!」


「でも、私たちがそう思ったとしてどうなるというのです? あの魔族全てがそんな考えになるなんて思えないですわ」


「だが、下位魔族たちはみな戦いを望んではいない! そういうものはこれからも増えるだろう! 魔族も変わっている!」


「かもしれない...... でも今はそうはならない。 私たちはあそこでいきるしかない。 いえ心を殺すしかないですわ......」


「そんなことはない! ここには人間と魔族が住む場所がある!」


「......えっ」


(いまだ! アエル! アストエルの体を固定して!)


 私が【念話】《テレパス》でそう伝えると、一瞬の隙をついてアストエルを抱き締め、両腕を押さえた。 


「無駄よ。 あなたの力では......」


 その瞬間、アストエルの角が宙をまう。


「なっ...... これは......」


 アストエルは脱力したように砂浜に座り込んだ。


(こっちは終わったか......)


 ケイレスが押されている。


「アエル! さきにケイレスを......」


「切らないで!」


 ケイレスがそういう。


「この剣...... 間違いない。 あなたレイエルでしょ!」


「............」


 無言で甲冑の魔族は剣をふるう。


(レイエル...... 確か、ケイレスを育てた魔族......)


「レイエル!! 私よケイレスよ!」


 それでもレイエルは攻撃をやめない。


「無駄ですわ...... レイエルは折れた角を戻されましたわ」


 アストエルがそういって立ち上がった。


 私が構える。


「もう戦う気がないですわ......」


「角を戻す、そんなことが可能なのか......」


「ええ、古代の魔法を見つけ、角の復元の方法を魔族は得た。 更に危険になりますわ」


「それなら、折ればいいだけだけね」


「そういえば、私の角をどうやって折ったのですか?」


「まあ、それはあと。 アエル、アストエル、レイエルの動きを止めて。 折るのは集中力をかなり要する。 複合して使えないの」


「わかった!」


「そう簡単じゃないですわよ。 レイエルは片角の私より強いのですから」


 二人はレイエルへと近づき攻撃する。


 三人を相手にレイエルは動きを止めない。


(強い...... しかも傷を受けたところがすぐに回復している。 再生まである。 心も殺意に満ちている)


「レイエル! やめて! わたしよ! ケイレスよ!」


(......ケイ...... ケイレ...... ス)


(今すこしだけ、レイエルの心に揺らぎがあった)


「ケイレス! そのままレイエルに語りかけて!」


「レイエル! レイエル! お願い! 思い出して!」


(うっ...... レイエル、私の名前...... これはなんだ。 わたしは何を...... ケイレス、誰だ...... 知っている)


 動きが悪くなり始める。 


「レイエル! 姉さん!!」


(姉さん...... 覚えている。 そう私はそう呼ばれていた。 あの頃、ケイレス、私の大切な......)


 一瞬レイエルの動きが止まる。 


「いまだ! 三人で動きを止めて!」


 三人がレイエルに抱きつく。


「【念力】《サイコキネシス》、【水念力】《アクアキネシス》】


 海から極限に圧縮細くした水を放つと、レイエルの二本の角が宙に舞う。


 すると、レイエルがガクンと膝をついた。


「レイエル......」


 レイエルが兜を脱いで、ケイレスをみる。 


「ケイレス...... 思い出したわ。 私の大切な妹......」


 そういってレイエルは涙をこぼした。

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