第17話

「かなり深いですね」


 アルトークについて地下へと向かっていた。


「ええ遺物がもし盗まれたら、この町に大量のモンスターが襲ってきて私もおわりますからな」


(やはり【遠隔透視】《リモートビューイング》でみたとおり、地下に金庫がある。 だとすると古代の遺跡は......)


 地下の巨大な部屋に入る。 大きな金庫が複数あった。 その真ん中の金庫をあける。


「魔法などで鍵をかけているわけではないんですね」


「ここでは魔法が使えません。 これのせいで」


 金庫の中に金塊の山と、大きな赤い球体がある。


「これは......」


「遺跡より発掘されたものです。 私は【魔封珠】とよんでいますがな。 これが起動すると、そこからかなりの範囲、魔法が使えなくなる。 だがモンスターも寄り付かないのですよ」


「なるほど、これを使えば」 


「ええ、鉱山のモンスターも排除できるのです」 


「しかし、移動しなければなりませんよね。 もし移動すれば、さっきいってたようにここは......」


「モンスターに襲われるでしょうな」


 そうアルトークはこちらをみて、ニヤリと笑った。



 アエルと帰った。


 町に戻りみんなとダンドンさんに話した。


「魔法を封じる古代の遺物か...... それを移動させられるとラダトスは滅ぶな」


 ダンドンさんはそううなづく。


「動かすには一週間はかかるといっていた。 その前に、あの町の住人をここに転移したい。 ただ町全てを転移させることはできないね」


「建物ごととんだら、その衝撃で崩れてこっちが潰されるしな。 外にだすしかないか......」


 ダンドンさんは腕組みして考えている。


「少しづつ移動させてはどうだ。 リンは内部をみれるんだろ」


 アエルが提案する。


「転移と透視を同時には使えない。 転移には莫大な力が必要だからね」


「なら、一ヶ所に集める必要があるな。 どうするんだリン?」


「ひとつ方法があるけど、人数が必要なんだ。 ダンドンさん頼めるかな?」


「なんでもいってくれ!」


 ダンドンさんがひとつ返事で答える。



「なんだ!? これはどうなっている! どけ!」


 人混みからアルトークの声が聞こえる。


「どうしました?」


 私が近づきこたえる。


「ああ、貴殿か...... この人混みは...... 町の外になんでこんなに住民があつまっているなんて」

 

「それは、あれですよ」


 私が指さす方にアエルやマーメルやダンドンさん、私たちの町のものたちが炊き出しを行っていた。


「なんでこんなとこで!」


「さあ、でもここのものたちは常に飢えていますから、それで【魔封珠】は」 


「こいつらが邪魔で運べないのです!」


 腹立たしげにそういった。


「もう少し待ったほうがいいですね。 この数を止めようとして暴れだしたら、あなたたちもただではすまないでしょう」


「くっ!」


 腹立たしげに帰っていった。


「リンどうだ?」


 アエルが近づいてくる。


「ああ、町に残った病人たちはもう転移させた。 あとはここのものたちだけ」


 座標位置を指定し、集中する。


(この人数を転移させるには時間がかかる......)

 

 食事が終わったものが帰ろうとしていた。


「アエル、なんとかここにとどまらせて」


「わかった!」


 アエルが中心にいき、みんなに向かって大声で話しかける。


「みなきいてくれ! もうすぐここラダトスはなくなる!」


 みんながざわついている。


「理由はモンスターに襲われてしまうからだ。 モンスターに襲われないのを疑問におもっていたものたちもいるだろう。 それは古代

遺物の力によってモンスターを近づけさせなかったからだ」


「そんな......」


「じゃあどうすれば」


「そんな噂があったな。 でも......」


 そう口々に不安そうに住人は話をしている。


「だが、その力は失う。 だからここにモンスターが来る。 でも心配いらない。 みんなはある町へと移動させる」


「でも他の町に居場所なんてない!」


「そうここしか生きていけないわ!」


 そう声が飛んだ。


「大丈夫! 私たちがつくった町だ! そこは人もいない、鉱山があるから仕事もできる」


「本当だろうか......」


「でもここにいても......」


「そうだな。 モンスターがくるなら」


「それが本当かはわからんぞ。 ここだって騙されてきたんだ」


 みんな迷っているようだ。


(......仕方ないか、リスク覚悟で【催眠】《ヒュプノシス》を使うしかない)


「信じられないのはわかる。 今まで誰も助けてはくれなかったから...... 私もそうだった。 幼いころから私を異常として誰も話を聞いてはくれない。 私はあきらめたんだ......」


 アエルは拳を握り必死に話す。


「でも本当にあきらめられてたわけじゃない! そう思い込もうとしただけだ! だからもう一度信じた。 人をじゃない。 人を信じる自分を信じた!」


 そう言葉につまりながら切々と叫び続けた。


「だから私たちを信じなくていい...... 人を信じる自分を信じてくれればいい......」


 静寂のあと、一人の住人が口を開いた。


「ど、どうすればいい...... あんたたちは俺たちに食事をくれた。 誰からもほうっておかれた俺にも......」


 それをかわきりに周囲から声があがる。


「信じる! 信じてみる!」


「教えてくれ! どうすればいいんだ!」


 そう次々と住民たちが声をあげた。


(【催眠】《ヒュプノシス》は必要ないな......)


 こうして私はみんなを転移させることに成功した。

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