僕の腹は満腹だけど、脳内は空腹で

karu

第1話 青春ばんざーい

 僕はA大学の2回生である。

 

 これは僕が2回生になる1年前の話。

 

 学校でスポーツをした。


というのも、体育のようなもので、そんなに部活のように


だらん、だらん、と汗をかき、

太陽の下で1t(トン)くらいのタイヤやら、おもりをロープに結んで、

そのロープを肩に乗せ、


おいっちに、おいっちに、と引きずりながら鉄板のような運動場で何周もする奴らとは違い、


ゆるゆると、だらだらと、のんびり運動する体育である。


今回、4人チームに分かれ、バトミントンをした。男女混合だ。


あんま人と関わらずに生きてきた僕にとって数少ない、話ができる人間と同じ班となった。

 その人間を仮にここではSとしよう。


Sは、異様に体が柔らかい。


タコのようにニュルッ、ニュルッとしている。

蛇のようだ。


きっとそいつの足は骨がない。


そう思うくらいの柔らかさなのだ。


そいつはとても整った顔をしている、と僕は思った。

昔でいえば、二枚目 というのであろう。


スポーツをするたびに、こちらに向かって話しかけてくれた。

その度に「おっふ。」と声が漏れそうになる。


多分恋の始まりな気もする。


とにかく一目惚れなのかもしれない。


少しの時間を一緒に過ごしただけだというのに、恋愛によくあるエンディングが流れ出しそうな気がした。


奴は、次の日の講義にも何百という生徒の中から自分を選んでくれた。


おい、鼓動が鳴っちまうぜ。


Sは、僕の隣に座った。


しかもだ。こちらに手を振って、

「おはよ。」なんて言うものだから、朝の眠気は吹っ飛んで、口角が上がり、テンションマックス。


向日葵のような豪快に自分を主張したくなった。

ティラミスのように美しく、苦く甘い恋をしたくなった。


講義は中々頭に入ってこない。

入ってくるのは、寂しくなった教授の頭だけだ。


僕は今、授業の内容よりも、彼(S)に夢中だ。


何を考えているのだろう。


昨日は学校後に何をしたのだろう。


自分のことをどう思ってくれているだろうか。

(多分、何も思っていないだろう。)


そんな乙女心を抱いた。


そんなよくある恋愛の主人公が考えるやつを想像した。


おお。自分にも「青春」というやつが来たんだ。

おお。これが噂の「青春」なのだろうか。


これが「恋の始まり」なのだろうか。

とか、アルプスの崖で叫びたくなった。


とある国民的アニメに出るシーンを想像した。

とある国民的アニメに出てくるやつのように俳句を考えた。



浮かばなかった。


多分、元から俳句に興味がないからかもしれない。


「青春の始まりだ。ばんざーい」なんて言っていたものだが、夕方になると



「俺、彼女よりゲームの方が大事」って言っているSとSの友人との話を聞いちまったものだから、

僕の恋はあっけなく散った。


恋が始まって48時間もしないうちに消えていった。


これがほんとの「青春ばんざーい」。


あんなキラキラした言葉のように感じた単語は、

いつの日からか、刑事ドラマに出てくる へっぽこ刑事っぽいやつが言っている安っぽい言葉なんじゃないかと思っていしまった。


なんか、当分恋はいいや。


僕の恋は、きっとそこらへんに植えてある今にも枯れそうな銀杏より先に、アスファルトに落ちたのだろう。






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