プッシートーク

かとうすすむ

第1話 本文

 加奈子は、男のイビキで目覚めた。どうやら、彼女の股間がイビキをかいている。

「えっ、いったい、何よ!」

 加奈子はパジャマのズボンをずり下げると、自分の女性器を観察してみた。おまんこが、いびきをかいて眠っている。男の声だ。どう言うことよ?

「あなた、ちょっと、起きなさいよ、これ、どういうことなの、あなた、何者なのよ?」

「何だよ、うるさくて眠れないよ」

 そう言って、彼女のあそこが目を覚ました。どうやら機嫌が悪い。叩き起こされたのだから、無理もない。

「じょ、冗談じゃないわよ。こんなことってある?あなた、何で喋ってるの?」

 すると、加奈子のあそこは、澄まし顔で神妙に答えた。

「俺の思うに、突然変異。一種の後天的奇形症ってやつだわな。ふんふん」「何、気取ってんのよ、あたしはそれどころじゃないのよ。このまま、あたしに生きていけって言うつもり?無茶言わないでよ」

「俺に言われてもどうしようもないぜ。お前が、何とかするしかないぜ」

 加奈子は、自分のあそこと、ブツブツ口論をしながら朝食のトーストと珈琲を飲んだ。そして、最終的に、きちんと、医者に診てもらうことに決意した。

 勤め先の会社には、臨時休暇を取って休みを取り、街に出た。

「こんな場合は、ええっと、内科かしら?それとも外科?いや、違うわね、ええっと、ええっと」

「泌尿器科じゃねえのかよ、俺の思うに」

「あなたは、黙っていればいいの。じゃあ、いいわよ、泌尿器科でも」

 加奈子は、医師の向かいの椅子に腰かけて言った。

「あのう、言いにくいんですけど、あたしのあそこが喋り出して、そのう」

「はあ、あそこ、と言われますと?」

「ええ、あの、いわゆる、その、あの、その、おまんこです、いやー!」

 それからも診察は続き、加奈子のあそこは、彼女の呼び掛けにも応じずに無言を押し通し、医師は首を捻った末に、加奈子に数日分の精神安定剤と睡眠薬を処方した。加奈子は恨めしげに医師を睨んでいたが、やがてため息を付いて薬を受け取り、家路についた。

「何で、肝心な時に喋んないのよ?あたし、キチガイ扱いされたわよ。どう言うことよ、言いなさいよ」

「そんなこと言っても、俺の立場を考えてくれよ。医師の前で話せるかよ、俺が危なくなるんだぜ」

 加奈子は家に帰ると、しばらくの間、真剣に悩んだ。その果てに、ついに暴挙に出た。

 加奈子は、置いてあった台所の果物ナイフを取り上げると、自分の股間に突き刺そうとしたのだ。すると、あそこが、とても落ち着き払った口調で淡々と語り出した。

「意味のないことをするな。俺が、そんなことで死ぬか怪我でもすると思ったら大間違いだぞ。そんなことよりも、人生で肝要なことは受容の精神だぜ。何でも受け入れて生きていく。それが大事だ。何とかなるよ、人生は」

 結局、その日は結論がでないままに日が過ぎて、とうとう、加奈子は睡眠薬を飲んで眠りについた。

 翌朝、男は目覚めた。起き上がると、ネグリジェを脱いで、男物のTシャツとジーンズに着替えて、髪を短く切り込み、胸は晒しを巻いて隠しておくと、外出しようとした。その時、男のあそこがわめいた。

「どう言うことよ!何で、あたしが、ここに居るのよ。何が起きたって言うのよ、教えてよ、狂いそう、あたし」

「生命体の神秘だな。一種の逆転現象だろうぜ。ともかくだ。俺の身体になったわけだ。俺の好きにさせてもらうぜ、悪いな」

「や、止めてよ、あたしの身体よ、あたしの人生よ、あなたのものじゃないのよ、いい加減にして!」

「悪いね、それじゃ」

 男は、軽く口笛を吹きながら、街へと出かけていくのであった‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

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プッシートーク かとうすすむ @susumukato

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