女性が怖すぎて超絶クールなフリしているのに、美少女先輩が可愛すぎる。

有沢真尋

第1話

 一ノ瀬いちのせつかさは冷たい男なのである。


 もともとは、わりと温かめの性格だった。

 それが数々のわざわいを招いていた。

 その結果として、「冷たい男」になることを決意した経緯がある。


「俺はもう、女性にはなんの興味も関心もない男として生きようと思う」


 司に惚れに惚れぬいた大学時代のゼミ仲間に「付き合ってくれないなら死んじゃう!!」と包丁を持って攻め込まれた日の夜、司はしみじみと言った。

 まさに危機一髪。

 部屋の中は竜巻が吹き荒れたみたいに滅茶苦茶だった。

 司はといえば、警察にさんざん事情聴取をされてようやく解放された後。


 この話がホラーなのは、司はその女性とは特に付き合っていなかった点だ。

 相手の女性もそれは重々承知で「付き合ってくれないなら」と言っていたわけで、「気を持たせた」形跡すらほぼない。

 思いつめて包丁を持って乗り込んできた相手が、不倫二股NTR等何らかの事情を背負っていたなら「痴話げんか(※訴訟・警察沙汰レベル)」とみなされるのもやぶさかではないのだが、と司は訥々とつとつと語った。


「大学内でよくすれ違っていて、挨拶を交わしたり、日常会話をしていただけなんだ。ごく普通に接していただけ、付き合ってもいない女性にここまで入れ込まれるのはもう『命の危機』を感じざるを得ない」

「にゃあ(同感なのである)」


「わかってくれるか」

「にゃあ(もっちろん)」


「よって、今後は意識的に女性には冷たくしようと思う。一生彼女ができなくても結婚できなくても構わない。それで幸せになる確率より、包丁で斬殺される可能性の方が圧倒的に高いんだ、俺の場合」

「にゃあ(それはいささか極端ではなかろうか)」


「わかってくれるか。さすが俺のニーチェ」

「にゃあ(待て。いまの会話は成立していない)」


「今日は飲もう。俺は今日を限りに女性とは会話をしない人生を歩む」

「にゃあ(猫なので飲まない。あと、敵は女性だけなのか。男性への警戒心は持たないでいいのか)」


「ニーチェさえいてくれたらもう、俺の人生には何もいらない……」

「にゃあ(猫なので。順当にいけば司より先に虹の橋を渡るぞ。すまんな。置いていく)」


「あっ、またたびがあれば良かった。俺だけ酔ってる場合じゃないや」

「にゃあ(いやいや構わない。包丁で殺されかけた日に飲める元気があるなら結構だ。好きなだけ飲め)」


 そんなわけで、司はその日を境に冷たい男デビューを飾ることとなったのだ。

 大学を卒業し、新入社員として企業に入社する、ほんの数日前の出来事だった。



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