ルートム国記―ランクイッド備忘録―

澄ノ字 蒼

第1話

 今母国であるルートム国とアムス帝国は戦争状態にある。この日もランクイッドの所属している部隊が敵国の聖騎士部隊の攻撃を受け撤退している状態だった。ランクイッドは、炎魔法使い部隊の世話係だった。まだ15才ということで戦闘は任されず物資運搬が主な役割だった。


 実はルートム国は負け戦が続き、兵が戦死していなくなり10代の若者にまで徴兵をかけていた。

 この日もいつものように食糧を自分の所属する部隊にまで運んでいると、急にドラ鐘がけたたましく響いた。

「敵襲! 敵襲! 二時の方向に敵軍が見えたり。およそ騎馬部隊500、騎馬魔法部隊50」

 その瞬間だった。火の玉が部隊に降り注がれた。辺りは地獄絵図となる。燃えさかりながら身体が崩れ去っていく者、逃げ惑う者、中には勇敢に立ち向かおうとするものもいたがもはや手遅れであった。声が響き渡る。


「突撃っ!」

 ドドドッという低く響き渡る音と共に敵の騎馬隊が乗り込んできた。どんどん仲間が死んでいく。気がつくとランクイッド唯一人で戦っていた。

「もはやこれまで!」

 ランクイッドは傍にあったヤリを手に持つと必死になって詠唱する。


 我が守護霊たる タヌキ様 タヌキ様

 あなた様の英知をお貸したまえ

 我が守護霊たる タヌキ様 タヌキ様

 

 その時、ランクイッドの身体が赤く燃え上がる。ランクイッドはヤリを天に掲げ唱える。


「我はバーサーカーなり」


 ランクイッドは一人で敵に突っこんでいった。ランクイッドはヤリを叩き衝き何人もの敵をなぎ倒していく。周りが混乱している。


「早くこの者を討ち取らぬか!」


 その間もランクイッドはどんどん敵を討ち取っていく。

「魔法弾部隊用意! 弓矢部隊もこの者に照準を合わせろ」

 いつの間にか周りに人がいなくなっていた。

「砲撃!」

 という声が響き渡る。

 ランクイッドは魔法弾部隊に突っこんでいく。そのランクイッドに向けて魔法弾と弓が大量に撃ち込まれる。ランクイッドは結界を張り必死に防御する。焼け付くような痛みが右足のつけ根に走る。土煙であたりが見えない。


 やがてもうもうとした煙は晴れた。ランクイッドは弓に右足とお腹を射貫かれていた。それでも立ち続ける。


 ランクイッドは叫ぶ。

「我が名はランクイッド! 武名こそないが、それでも数百の敵と相対しているぞ。我こそはというものは名乗り出ないか!」


 みな遠巻きに見ている。ランクイッドの口から、ごぼっ、と血だまりが吹き出る。その時、


「おう」


 と声がした。かすみゆく目で声のした方を見ると、金と銀のヨロイを身にまとい、まばゆいばかりの銀の剣を持った初老の男性が名乗り出た。

「その心意気やよし。我が名はアムス帝国第二騎士団の団長アレン。お相手致す」

「ありがたい。冥土の土産になりまする」


 白馬に乗った騎士団長アレンは剣を構える。ランクイッドは先ほど魔法詠唱を行ったが続けて二度バーサーカーの詠唱を行う。肉体滅消の禁術である。痛みが消え自らの身体能力、魔法能力の限界を突破する。その能力は一時的に一流の勇者にも勝る。その代わり術者の肉体が滅び行く。


 ランクイッドはホムラと唱える。ホムラとは炎の最上級の魔法である。

 そのホムラの魔法を針の先ほどの大きさにして爆発させる。その爆発力と共にランクイッドは騎士団長に突撃していく。

 あとはもう訳が分からなかった。獣のように騎士団長アレンをなぎ倒すと、そのままアレンの馬に乗り敵の中に突っこんでいった。


 そこでぷつんと意識が途切れた。

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