heavy report

dede

第1話


「ねえ、山崎くん?私たちの友情はそんなものだったの?

たかがこのダンボールいっぱいの報告書で瓦解するほど、ヤワなものだったの?違うでしょ!!

さあ、今こそ、我々の、私と!あなたの!友情パワーの、見せ所よっ!!」

「あ、うん。帰っていい?」

「軽いね山崎くん?

ダメだよ。はい、リピートアフターミー。友情パワー」「友情パワー」

「ねえ、山崎くん。私達、お友達でしょ?」

「うんうん、俺たち友達友達。帰っていい?」

「ダメ」

ダメかー。量がえげつないんだけど?これに目を通さなきゃダメなの?



クラスメートの野崎さんは生徒会長だ。何かと忙しい身の上だ。

クラスメートの野崎さんとは幼馴染と呼べる仲だ。幼稚園からの付き合いだし、まあ、割とよく話す方だと思う。

クラスメートの野崎さんはモテる女子だ。俺の友達は俺をダシに野崎さんと仲良くなろうと躍起になっている。

まあ、それは構わないんだが……彼らの進捗報告を聞く限り、塩梅は良くないらしい。そろそろ諦めたらいいと思う。

愚痴に付き合うのも億劫だ。塩対応ではないものの、やんわりと躱されている日々らしい。

そんな野崎さんがある日の放課後、俺に泣きついてきた。

「お願い、報告書の確認、手伝ってくれない?量が多くてさ」

「俺、生徒会じゃないし。他の役員にお願いしなよ?」

「他の役員も忙しいんだよ。ね、お願い。今度奢るから。どこのケーキがいい?」

「……最近できた駅前のお店で」

「交渉成立だね。じゃ、一緒に来て」

野崎さんに連れられて生徒会室にやってきた。全員出払っていて誰もいなかった。

俺が室内に入ると野崎さんは扉に鍵をかける。

「……なんで今鍵かけた?」

「深い意味はないよ。じゃ、早速作業に取り掛かろう。山崎くんはそこの席使って。よっと……」

そう言って野崎さんは部屋の隅に置いてあったダンボール箱を持ち上げると座っている俺の前におろした。

ドカッ

野崎さんの持ち上げ方からもだいぶ察しはついてたけど、だいぶ重そうだよね?

……いや、でも、きっと色々入っているんだろう。あれが全部報告書って事はあるまい。

野崎さんがダンボール箱を開ける。

「はい、じゃあ、これに全部目を通してね」

俺は席を立つ。野崎さんは施錠された扉の前で立ち塞がる。そして冒頭。嵌められたー。



俺は一度あげた腰を再度下ろした。

「わかった。観念した。それで、具体的に作業の指示が欲しいんだけど?」

「全部読んで。そして感想聞かせて?」

「え?感想?」

俺は一番上に積まれた冊子を手に取る。野崎さんは報告書と言っているけど、ぺら紙ではなく冊子が入っていた。

適当に開いてみる。

『〇月×日 今日は休日なのに山崎くんに会った。今日はとても良い日だ。

自転車に乗った山崎くんが後ろから私に声を掛けてくれた。山崎くんは本屋に行くらしい。……』

あれ、なんか知ってる事が書かれてる。というか、これ……

「日記?」

野崎さんは至って真顔で答えた。

「報告書だよ」

「誰から?」

「私から」

「誰への?」

「山崎くんへの」

「何を報告?」

「私を」

「野崎さんを?何のために?」

野崎さんは、微笑んだ。


「友情を、瓦解させるため」


思えばそれは、オレが初めてみる友達ではない野崎さんの表情だったと思う。
































ってかさ!?さすがに俺でも分かるよ。

だってさ、大人しく日記を新しいものから読んでってるけど俺と会った時必ず書かれてるんだもん。

なんだったら俺が忘れてたり、オレが野崎さんに気づいてなかった分も書かれてたよ。野崎さんがどう思ってどう感じたかも交えてね!

俺が淡々と日記に目を通している間、野崎さんは何をしているかというと、自分のデスクでこちらも淡々と自分の仕事をこなしていた。

ページをめくる音、紙に書き込む音、空調の駆動音が耳につく。外の部活動の喧騒はどこか遠くに聞こえた。

西日が窓から差し込み、やや黄色味がかってきた光で舞っている埃がキラキラと輝いてみえる。

「なあ、なんでこんな事してるんだ?」

彼女は手を止めると、しばらく思案する。

「私がどんな人か知って貰うにはこれが最善だと思ったの。その上でなら納得できるし。思ってたのと違うって事もないしね?」

「真面目か」

「重いのよ。自覚はあるの。だからせめてフェアでいたいの」

「ふーん」

彼女はまた自分の作業に戻った。

俺はというと、日記を読むのを止めてカバンからノートを取り出し白紙のページをビリッと破りとる。

そこに2文字書き込むと、折って折って紙ヒコーキを作る。

作った紙ヒコーキを野崎さんに向けて飛ばしたら、ふらふら、くるくるしながらも上手いこと野崎さんの机の上に着地した。

「たぶんさー、俺がクラスの男子で一番野崎さんの価値を分かってないと思う。

可愛いと思っているけど、見た目が好みって訳じゃないし。融通効かないなとか、重たいヤツとか思ってるし。

昔から一緒だから空気みたいに思ってるし。

でもいないと寂しいとは思うし、他のヤツと仲良さそうにしてるとモヤモヤするし、話してると楽しいし。放っておけないし、おきたくないし」

彼女は手元の紙ヒコーキを拡げる。

「なあ、後でちゃんと全部読むから、今日はもう駅前のケーキ食べに行かない?」

「……あと30分待って。これだけは終わらせるから」

「ダメ?」

「ダメ」

「分かったよ。続き読んで待ってる」

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