無題。異世界ものです。
@katabira
第1話
聞こえますか。私の声が聞こえていますか。
この世界は闇に包まれようとしています。
遠い過去に封印された魔王。
この世を魔の手に陥れ、人類の平和を脅かそうとする魔を統べるもの。
どうかお願いします。
彼の者を打ち滅ぼすことが出来る聖剣。
伝説の勇者が封じ、誰も抜くことができないそれを抜くことが出来る者。
それが貴方なのです。
伝説の勇者の再来となるでしょう。
どうか聖剣を手に取り、この世界を覆おうとする闇を打ち払って下さい。
光の女神である私の願いを、貴方に託します……
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勇者よ、光の勇者よ。
聞こえていますか。
あれから半月が経とうとしています。
あなたは夢の話だと思っているようですが、それは違います。
この世を闇で覆おうとする魔王が復活しようと、今も企てているのです。
すべてこの世界に本当に起ころうとしていることなのです。
勇者よ、どうか私の言葉を信じてください。
伝説の聖剣と共に、この世界を救ってください。
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勇者よ、私が最初に夢に現れてからひと月が経ちました。
私は、女神という立場に少々甘えていたのかもしれません。
ただ夢に現れて、貴方に一方的に世界を救ってくれ、などと、無茶を言っていることに気付きました。
ですが、このまま何もせずに世界が滅ぶのを見てるわけにはいきません。
貴方に、私の加護を与えます。
光の女神である私の加護を得た貴方は、人より優れた力と魔力を持つでしょう。
どうかその力を使って、この世界を守ってください。
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勇者へ。
何度伝えても夢の話として処理されるので、村に住む貴方の幼馴染にも伝えておきました。
どうかこれで私の言葉を信用してはいただけないでしょうか。
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勇者へ。
「同じ夢を見るなんて奇遇だね」じゃないのです。
幼馴染の方は私の言葉を少しは信じていましたよ。
少しというのが引っ掛かりましたが。
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勇者。
久しぶりに幼馴染と昔のように過ごせた、ありがとう。お供え物です。
じゃないのです。
幼馴染にも言われたでしょう「ひょっとしたら本当に勇者なんじゃないの~?」と。
軽いノリなのが少々不服ですが、連日同じ内容の夢を見て幼馴染は怪しみ始めましたよ。
貴方もそろそろ信用してくれてもいいのではないですか?
というかお供え物してる時点で夢だと思ってないですよね?
ちょっと私のこと信じてますよね?
一応、供えていただいた果物と野菜は頂いておきます。
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子供の頃に幼馴染と一緒に勇者と姫のごっこ遊びをしていたからその頃の思い出が夢になったのかな。
じゃないのです。
貴方も貴方ですが幼馴染も相当に鈍いですね?
わかりました。
貴方が私の言葉を信じるように、もっと信用の出来る人間から信託を伝えさせます。
どうか、彼女の言葉を信じ、魔王を倒す旅に出てください。
追伸:先日のお供え物、たいへん美味でした。
「うちの野菜は生でも美味い」と言っていたので試しにトマトをそのまま頂いてみましたが、まるで果実のような甘さでした。
お礼に畑にも小さいですが加護を与えます。
貴方の畑はより一段と活力を得て、そこに芽吹く作物はとても健やかに育つことでしょう。
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勇者へ、先日は考え無しに加護を与えて申し訳ありませんでした。
まさか雑草と害虫まで成長するとは思わず、短慮な自分を恥じるばかりです。
ですが、私の神託を伝えに来た聖女にいきなり草刈りを手伝わせるのはちょっとどうかと思います。
今回の件に関しては私に落ち度があるので、聖女には私の方からも謝罪しておきます。
慣れない作業で腰を痛めた聖女がしばらくそちらでお世話になります。
どうか魔王討伐の旅のお供としてお連れください。
そうだ。
聖女から、貴方の野菜と聖女の持っていた調味料で作ったスープを供えられたので、ちょっと頂いてみますね。
……えっ美味しい……塩と胡椒を少し入れただけなのに、なんだか野菜の味が引き締まるというか、より強く感じられるというか……
え?村で作ったベーコンを入れたらもっと美味しくなる?
そ、それはなんて魅力的な……!
……ん?
……あれ、ちょっとまってください、今私の言葉に返事をしtあああちょっとまってまだ起きないで!
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