第6話 友達第一号
※
「ねえ、キミ……」
ん……?
女の子の声が聞こえた。
いつの間にか、俺は眠ってしまっていたらしい。
「お~い」
肩を揺らされ目を開くと、目前には知らない女の子の顔。
(……って、あれ? ここって……? ……ああ、そうか……俺は電車に乗って……)
そのあと眠ってしまっていたらしい。
乗車する人が少ないこともあってか、電車の中は自分のベッドよりもずっと寝心地がよかった。
「おはよう。
キミ、
電車の僅かな揺れに合わせて、少女の赤い長髪が小さく揺れた。
彼女が着ているのは、俺と同じ学園の制服だ。
「……ああ」
尋ねられるままに俺は返事をする。
「じゃあさ、とりあえず降りない?」
「え?」
「このまま乗り過ごしたら、間違いなく遅刻だから」
微笑を浮かべながら、少女は電車のドアを指し示した。
到着場所は『支王学園前』――と書かれている。
俺がそれを確かたのとほぼ同時に発車ベルの音が鳴った。
「ほら、行きましょう」
「ぁ……」
立ち上がった少女は俺の手を引き、電車を降りた。
「はぁ〜……よかった。
これで遅刻は回避できそうだね」
俺を遅刻から救ってくれた少女が、優しい微笑を浮かべる。
「いや、助かったよ。
起こしてもらえなかったら、完璧に乗り過ごしてた」
「お節介かとも思ったんだけど……。
入学式から寝坊で遅刻するっていうのは、流石にマズいかなって思ったんだよね」
「……ほんと、助かった。
こんなことで、俺たちの価値を決められたらたまらないからな」
改めて、俺は気を引き締める。
遅刻を理由に初日から退学扱いになっては、これまでの全てに意味がなくなる。
「だね。
私はアネア・アルル。
所属は一年A組」
そう言って、アネアは俺に手を差し伸べてきた。
「ヤト・イラーク。同じく一年A組だ」
差し伸べられた手を取って、俺は名前を伝えた。
この学園に入学する為に用意した偽りの名を。
「ヤトくんも新入生なんだ!
しかも同じクラスってことは……私たち、友達第一号ってことだよね!?」
「と、友達第一号……?」
アネアは純粋で真っ直ぐな笑みを俺に向ける。
その笑顔には、これから始まる学園生活に希望が詰まっているようだった。
(……そうか。
俺にとって支王学園は、友達を作る場所ではないが、純粋に学園生活を楽しもうとする生徒もいるんだよな)
それは決して、おかしい話ではない。
だが、どうしても考えてしまう。
そんな甘い考えで、生き残ることができるのだろうかと。
(……この学園は、自身の価値を示す者によっては最高の学園となるだろう。
金、権力、名誉、この世界で力と呼べるいたるものを手に入れることができるのだから)
自身の価値を示す為なら、あらゆることをする生徒がいるだろう。
たとえば信頼していたクラスメイトに裏切られる……なんて自体が起こらないとも限らない。
だが、
「ということで、ヤトくんは私の友達第一号に決定です!
これから、少しでも楽しい学園生活になるといいね」
やはりこの少女には一切の邪気がなかった。
変わった生徒もいるものだ……というのは口にはせず、礼儀として挨拶を済ませる。
「ああ、今日からよろしくな」
馴れ合う必要はない。
入学者の誰かが今日中に、この学園から去ることになる可能性だってある。
(……いや、退学程度ならまだマシなのか)
それ以上のリスクと隣り合わせなのが――俺たちが通うことになる
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