なんでも手に入るアプリを手に入れた
@nijihoryu
第1話 宇宙銀行
パンパカパーン
突然、手元のスマホから聞いたことのない音が流れた。
思わずビクッとしてスマホの電源を切る。
「な、なんだ?」
緊急地震速報…的なやつか?
それにしては、だいぶ陽気だったような。
ウィルス?
スマホもウィルスに感染するのか?といっても変なサイトなんて見てないはずだが。
恐る恐るスマホの電源を入れる。
「聞き間違いか?」
特にこれといった変化もない、いつも通りのメイン画面だ。
メールも来てないし、ほんとに聞き間違いだったのか?
なんの気無しにふと画面を右にスワイプした時だった。
「地球…のマーク?」
画面を左にスワイプする。
たしかに、見慣れたいつもの画面、アプリ達。
そしてもう一度画面を右にスワイプさせる。
やはり、真っさらな画面にアプリが一つだけ表示されていた。
地球のアイコンに、宇宙銀行というアプリ名が下に表示されている。
「うーん…?」
こんなアプリインストールした覚えないけどな…。
なんか、変な広告でも踏んでたのか?
だとしたらさっきのパンパカパーンのタイミングだよな?
普通になろう小説を読んでいただけなんだが…。
バグ?新手の詐欺?
「あ、そうだ」
手元のスマホを使い【宇宙銀行】という単語を検索してみる。
どうやらスピリチュアル界隈で良く使われてる言葉のようだ。
ふむふむ、徳を積むとそれが宇宙にある銀行に貯まっていき、良い事が起こると。
なかなか興味深い内容でつい読み耽ってしまいそうになる。
「って、そんなことよりこのアプリはなんなんだ?」
【宇宙銀行 アプリ】で検索してもそれらしいアプリは出てこなかった。
念のためSNSで検索をかけてみたが、やはりそれらしいつぶやきをしている人はいない。
なんだこれ?未知のアプリ?
なんらかのウィルスに感染したことは確実だろう。
ちなみに、アプリがインストールされていると気づいた時点でカメラにはシールを、位置情報はオフに設定し直し、一度電源も消してある。
「いや、怖い」
なんだこれ。
こういうサイトは絶対に開いちゃいけない。
いや、アプリか。
聞いた事ないな、こういう手口があるなんて。
ともかく、こんなものは今すぐ消してしまおう。
スマホの画面を長押しする。
「…あれ?」
もう一度長押しする。
だが、アイコンは微動だにしない。
なんの気無しに左に画面をスワイプする。
すると、しっかりアイコン達が震えているではないか。
「消せない…って事か?」
もう一度画面を右にスワイプすると、やはり震えていない。
というかこれ、本当にアプリか?
システムに従い震えるアイコン達の中で、ただ一つ微動だにせず鎮座しているアイコンが画面に張り付いた絵のような錯覚に囚われる。
知らぬ間にホーム画面の背景を変えられた?
いや、俺にそんなドッキリを仕掛けてくる知人友人の類はいないしな。
でも、さっきのパンパカパーンってSEも、音というより「声」のように聞こえたような。
なんだか女の子のような声で…。
って。
「あ…」
気が緩んでいたのだろうか。
さっきから右へ左へと画面を移動させながら、あれこれ考えていたせいか。
つい、つい指先がアプリに触れてしまった。
「やべ…って消えね!?」
電源ボタンやホームボタンを連打するが全く反応せずに、真っ白な画面が表示されたかと思うと、アイコンよろしくやたらリアルな地球の3Dが回転する画面が表示されてしまった。
宇宙銀行が開かれてしまった。
「なんかこれ、飛び出てる?」
なんかこれ、飛び出てね?
俺にはどうも地球が画面から明らかに…ホログラムかのように映し出されているような気がするんだが。
スマホってこんな機能あったっけ?
ちなみに、さっきから電源ボタンを長押ししているが一向に反応しない。
立体的に飛び出た地球が優雅に回転し続けている。
「なんだこれ…って、やばい! 爆発する!!」
なんだかあっけに取られたまま、どこか現実味のない光景に気が緩んでいたのか、地球の立体映像を人差し指で横から真っ二つにするようになぞってしまった。
つい、指が出てしまった。
すると、さっきまで一定のペースでゆっくり回転していた地球が急に猛スピードで回り始めて、ついには光り輝き始めた。
「ギャーーーーーーーーーー!!」
もうどうする事もできずに、耳を塞ぎ、目を強く瞑る。
…俺は、生きているのか?
恐る恐る目を開けると、地球はどこかに消え、スマホには『買う』やら『売る』やら、何やら物騒な文字が表示されている。
そしておそらくマイページ的なものなんだろう。
そこには親名義のスマートフォンにも関わらず何故か俺の本名も表示されていた。
「普通じゃないなこれは…」
どうやら、完全に異常事態らしい。
だが、不思議と心は落ち着いていた。
さっきの異常な発光。
あれはスマホ本体からではなく、立体映像の地球の方から放たれていた。
それゆえに、俺の中にあった一つの疑問はある一つの確信に変わりつつあった。
どうやらこれは常識の範囲外の出来事、いわゆる超常現象の類いであろうと。
改めてもう一度、スマホに表示された画面を隅から隅まで眺めてみる。
名前と、買うと売るボタン、そしてヘルプという項目がある。
ずいぶん質素というか、簡素、というか。
このアプリを作ったシステムエンジニアがいたら恐らくクビだろうが、問題ない。
なぜなら俺は、ものすごくワクワクしているからだ。
むしろ、この単刀直入具合が気持ち良い。
さっきまでのウィルスや詐欺なのではないかといった不安は消え失せ、目の前に広がる異常事態に期待が膨らむばかりだ。
異常な発光から裏付けられる超常現象である事への証明に、宇宙銀行という名称、買うという選択肢の存在。
…それらが意味することはつまり…。
「金なくてもなんか買えんじゃね?」
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