その45 たくみくんはないちゃう

「なに? どうしたの?」

 

 仲村さんは答えない。いや、どう答えようかと思案している感じだ。

 

「その……実際に……見てもらった方がいいかも……」

 

 

 ────────

 

 

 拓光君がいる部屋に行く道中も仲村さんは難しい顔をしている。こちらは、拓光君の具合が気になるので歩きながらでも、なんとか聞きだそうとする。

 

「ヤバイことになってるってこと?」

 

「……拓光君はアラームを聞き逃して自己を保てなくなって、完全に大賢者って役に飲み込まれちゃったの。ただその時の脳への負担が大きすぎて……とにかく見てもらえれば分かるよ」


「そうか……なあニクス。こうなるってことくらいは予想できなかったのか?」


「申し訳ございません。ある程度の予測は立てていましたが……あの時はこれが最善手だったのです」


 ニクスは表情を崩さずに謝罪をした。


「いや、責めてるワケじゃないんだ。オレは助けてもらったんだし」


 拓光の部屋に着く。

 仲村さんはドアノブに手を掛けると


「注意点。今からドアを開けるけど、決して怒ったり大声を出さないこと。いい?」


「怒るってなに? まあ……わかったよ」


 仲村さんがドアを開ける。


 部屋の中央にうずくまって、なにやらゴソゴソしてる拓光がいた。ベッドに横たわっているかと思っていたので拍子抜けだ。


「なんだよ……元気そうじゃ……」


「あ! おねえちゃん! いまねーおえかきしてたんだよー」


 そう言って拓光はコチラに気付くと駆け寄ってきて、いきなり仲村さんに抱きついた。

 ので、顔面に蹴りを入れて引き剥がす。


「なんやってんだお前は、人前で……」


「ふ……ふえええええええ! おじさんがけったぁ!」

 

 突如、泣き出すという予想外の展開にたじろいでしまう。そんな強く蹴ったか? すると仲村さんは、しゃがんで泣いている拓光の頭を抱きかかえて慰め始めた。


「おーよし、よし。おじちゃん怖かったねぇ……後でお姉ちゃんが『めっ!』してあげるから……ちょっと! 左町さん!」


 怒られた。

 いや……ちょっと待てや。


「は? えっと……なに? 付き合い始めたってこと?」


「ち、違うよ! 拓光君は脳への負担がかかり過ぎて……幼児退行しちゃったの。今は大体3才くらい」


「なんでやねん」

 

 関西人でもないのに関西弁が出る。それほどまでになんでやねん。


「脳に負担がかかり過ぎて、思考能力がショートしちゃったんだ。脳を守ろうという自己防衛本能だろうね。珍しいことじゃないよ」


 珍しいよ。アンタ異世界から来たのか? 

 

「そうですか。心配して損したわ。で? コレいつ治るの?」


「さあ……。でも最初は完全に赤ちゃんだったからね」

 

「ふーん……ま、生きてただけよしとするか」


「タクミ様はコチラで全力でバックアップさせていただいております。現在、脳のサポートをブルマインで行っており、現実世界での時間で約2分。ブルマイン内では、およそ23時間後にはタクミ様は回復されるはずです。」


 ニクスがこう言うんなら、そうなんだろう。とりあえず心配なさそうだ。


「さて。じゃあ仲村さん。今後のお話でもしようか。オレが得た情報を話すよ。仲村さんも……」


「うわーん!!」


「ほーら大丈夫。このおじちゃん怖くないからねー。あ、うんそうだね」


「うわーん!!」


「どこから話そうか、まず……」


「うわーん!!」


「おい、ニクス。コイツの口ん中に真綿かなんか詰めてくれ」


「ぎゃああああああん!!」


「ちょっと左町さん!」


「サマチ様、幼児虐待になってしまいます」


 二人から怒られた。いや、幼児じゃねえから。




 ────────




「……というわけで。どうやらヨシミツ……七々扇ななおうぎ社長の最終目標はこの世界をランドルト王国から救う事らしい。この世界の魔王は王様だったってワケだ」


「なるほどね……で? 左町さんはどうするつもりなの?」


「ニクスにも頼まれてる。オレ達はこの世界を救いつつ七々扇ななおうぎ社長も助ける。そうなると今はかなり微妙な立場だな」


「はい。サマチ様は女神達93人……およそ3分の1の戦力を削いでしまった為、今のままではセブンセンスに勝ち目はないでしょう。セブンセンスとの関係も最悪の為、ランドルト王を打ち倒し七々扇ななおうぎ社長の救出となると、かなり厳しい状況になってきますね」


「とりあえず闘技会でセブンセンスに近付く、オレが消した女神は向こうは覚えていないだろうし」


「はい。しかし、七々扇ななおうぎ社長本人は忘れていない可能性があります。現実に存在する人間の記憶。植え付けることは現在可能ですが、部分的消去となるとまだ不完全ですから」


「恨まれてんのに仲良くは出来ないって? まあ、そこはホラ。ジャパニーズサラリーマンですから。現代社会の処世術ってヤツを見せてやるよニクス」


「さて……」と膝に手をついて立ち上がる。


「千年祭で明日はお祭り騒ぎなんだろ? そのぉ……エタノールギャング? って1回戦であたるハズだったヤツも、あんな目にあったんなら出てこないだろうし、不戦勝なら好きに羽も伸ばせるだろ。さっさと部屋に戻って寝よう」


「私は拓光君の部屋で寝るよ。ほっとけないし……」


 仲村さんを見ると拓光が腰の辺りにしがみ付いて離れようとしない。


「あ……うん。え? 一緒に?」

 

「そ、そうだね」

 

「へぇ……ふーん。そうか。頑張ってね」

 

「は!? な、なに言ってんの左町さん!? セクハラ!」

 

「いやいや、オレはただ拓光の世話を頑張ってねって言っただけよ……じゃあ、失礼しまーす」

 

 冗談を交えながらニクスと共に部屋を出た。

 

「サマチ様」

 

「ん? なんだ?」

 

「ナカムラ様は今宵『1匹のメス』になる。ということをサマチ様はおっしゃりたかったのでしょうか?」

 

「お前の人類の参考文献ってなによ?」

 

 

 

 ────────

 

 

 

 部屋に戻る途中、中庭である人物を見つける。

 

「……ニクス。オレちょっと寄り道だ。先に自分の部屋に戻ってくれ」

 

 ニクスは、その人物とオレを交互に確認すると

 

「分かりました。サマチ様。では、お休みなさいませ」

 

 と一礼をし、その場を去った。

 オレは見つけた、その人物に声をかける。

 

「やあ、ドクトゥス君。隣いいかい?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る