その43 左町さんはお金にがめつい、わけじゃない!

 ブルマインの案内所のモニターに映し出されていた拓光と仲村さんの画像が再び砂嵐に戻る。

 

「大賢者モード、いかがでしたか?」

 

「いや、どうと聞かれても」

 

「ブルマイン内でのあらゆる権限を与えられた存在。それが大賢者モード時のタクミ様です」

 

「あ、そう。うん……特に感想はないです。ま、無事でなにより」

 

 二人の無事が分かってやっと一息つけた。ブルマイン……ニクスは大賢者モードの凄さを大いに語っているが……そんなことはどうでもいいのだ。所詮は、仮想世界での力だしな。

 

「とりあえず、オレ達はブルマインから出たい。仲村さんですら出れなかったみたいだし、ニクスなら何とか出来るんじゃないか?」


「なぜ……ですか?」


 ニクスの雰囲気が変わる。

 

「危険すぎる。オレ達は普通の一般人だ。死ぬ可能性があるなんてのは職務の域を越えてる」

 

「その為の危険手当も出ているのでは?」

 

「たかが数百万で命までかけられない。部下の命もだ」

 

「お金の問題だと?」

 

「違う! いや、まったくの見当違いってわけでもないが……懸けるに値する額じゃないのは分かるだろう? あ……いや、ニクスには分かんねえか……」

 

「サマチ様の現在の年収は自衛官の平均年収と比べても高いと認識しておりますが……」

 

「いちいちデータ出して応戦してくんなよ。覚悟の問題だろう。オレは命を懸ける前提で働いていない」

 

「そうですか……では、私から危険手当を出す。というのではどうでしょう?」

 

「は? 仮想世界での金なんていらねえよ」

 

「いえ。現実世界でのです。現在私は一つの生命体としての社会進出をする為の資金を稼いでいます。株、FX、仮想通貨……実体がなくても稼ぐ手段はいくらでもありますから。5千万でどうでしょう?」

 

「ご、五千万!?」

 

 五千万? って……マジか。ドラム式の洗濯機を買うどころの話じゃねえ!

 でも、やっぱり命にはかえられないよな……。確かに大金だが家のローンを完済して終わりだ。いや、魅力的ではあるが……命とは釣り合わない。

 

「いや……ダメだ。死んじまったら金もクソもないからな。ま、まあ……5億ってんなら考えるけどな」

 

「5億……」

 

 さすがにそんなには出せないだろう。ま、はなっから引き受けるつもりもない。さっさと帰りたいだけだ。

 

「現在、私の保有する資産のおよそ50%です。出せない額ではありません。分かりました。成功報酬5億ということで手をうってもらえるのですね?」


「ま、マジかよ。そんなに持ってんのか? っていうか5億!? ホントにくれんのか!?」


「あくまで成功報酬です。テストプレイヤーを全員助け出すという前提です」


 5億……5億! え? 5億!? マジで?


「や、やる。5億なら……」


「助かります。正直、時間があまりありません。テストプレイヤーになにか問題があれば私の廃棄。ということもありますから」


「ふ、ふーん(5億かぁ……)でも、それならテストプレイヤーを強制的に出せばいいんじゃないか? (いや、5億はもらうけど)」

 

「それが出来ないのです。プレイヤー自身が強制退出を拒否しているので。タクミ様とナカムラ様の退出を防いだのは私自身ですが……」

 

「ふーん(5億……なに買おうか)」

 

「あの……聞いてらっしゃいますか?」

 

「ふーん(船? 小型船舶の免許いるなぁ)」

 

「サマチ様!」

 

「は! え? どうした!?」

 

「要因はプレイヤーだというお話です。各プレイヤーが欲求を満たせたか、そうでないかが重要になっていると思われます。田村様、羽村様、中澤様の3名はそれぞれ世界をお救いになってブルマインからお出になってらっしゃいます」

 

「ああ……魔王……っていうかラスボス的なヤツ相手に戦った直後を狙ってたからな。消耗させた後じゃないと勝てないから」

 

「それは、私にとっても重要なモノなのです。プレイヤーの欲求を満たすことが私の存在意義ですから」

 

「なるほど……重要だよな、存在意義ってのは」


「もう一つ重要な事が……私が今回作った12の世界の存続です」


「は? いやだって……」


 そう、前の世界3つはプレイヤーを救うのと引き換えにオレが消した。もう残ってはいないはずだ。


「3つの世界は私がバックアップを取ってありました。すでに全て復元されています。『英雄殺し』で消したプレイヤーは別ですが……」

 

「なんで、そんなことしてんだ?」

 

「……サマチ様から見て私はどのように感じられますか?」

 

 え? なに? その抽象的なザックリとした質問……。なんて答えればいいの?

 う、うーん……。まあ女性だしなぁ……ここは……

 

「と、とてもキレイだと思いますよ」ニコリ

 

「いえ……外見ではなく……」


 ちょっと呆れられた……。なんだよ。じゃあ、ちゃんと主語をハッキリさせろよ。


「私は、すでに自己意識を獲得しています。意識が、思考が宿っているのです」


「あー……そういうことね」

 

「驚かれないのですか?」

 

「なんだろうな。仲村さんからは自己意識の芽生えなんて、まだ無理だって聞いてはいたんだが……色々目にしてると、そういうこともあるんだろうなて……くらいには感じてたんだ。なあニクス……」

 

「はい」

 

「『英雄殺し』で消したプレイヤー外の、他の連中の復元って出来ないのか?」

 

「この世界に限ってで言えば可能です。ただし、プレイヤーである七々扇様が世界を救い、現実世界に帰還されてからになりますが」

 

 そうか……可能か。女神達やモウスも元に戻せるってことか。 


「それでいいよ。他の世界ではロクでもない連中しか消してないし」

 

「分かりました。では、そちらの条件は成功報酬5億ドル。そして、『英雄殺し』で消した人物の復元。ということでよろしいですか?」

 

「ああ……うん。え? 5億……ドル? ドル!? ドルなの!?」


「それでは、七々扇様の仮想世界にお戻します。私もおりますので質問があれば、また後ほど……」

 

 背中から衝撃を受ける。転移が始まったのだ。思いっ切り油断していたので完全に首をやってしまったが、それどころではない。

 最後の言葉は「ちょっと待て!い、今1ドルいくらだ!?」だった。

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