仮想世界のおじさんは英雄を殺す
ナカナカカナ
プロローグ
既視感のない……映画やアニメでしか見たことのないような現実離れした世界が眼前に広がっていた。
巨大な島がいくつも空に浮かび。さらにその上を見上げると月が2つ浮かんでいる。
実にファンタジー。
若者の名前は
数日前から帝国の首都である城塞都市デンデルは魔王軍に完全に包囲されていた。
勇者直人の活躍により主力幹部大半を失った魔王は自らが軍を率いて総力戦に出たのである。
しかし、そこは勇者。なんのかんのと仲間たちと協力し、重要そうな人物の死を悲しみとともに乗り越え、ついでに包囲網を突破。ついに魔王と対峙し見事撃破!
と思いきや。
魔王は自らが率いる魔王軍の軍勢を吸収し最終形態へ。
現在、双方死力を尽くしたラストバトル真っ最中なのである。
「しかしまあ……出鱈目に強いっすね。案外このまま倒してくれるんじゃないっすか? 」
「普通に死んでくれたんでも、いいならいいけどな」
「まあ、無理なんだろうな。分かってて言ってんだろ?」
そう言って、ジト目で彼の方を見ると、なにが楽しかったのかヒヒっと笑う。しかし、すぐに表情を持ち直し上空を指差す。
「あれ……マズくないっすか?」
拓光が指を差した方向を見ると、山のように大きなドラゴンが勇者の仲間達の元へと降り立ったのが見えた。
「なにがマズいんだ?」
「いや、アイツらさっきボロボロだったじゃないすか。あんなん勝てないでしょ」
「は? オレらに関係ねえだろ」
「いやぁ……どうっすかねぇ。田村君、気になっちゃうんじゃないすか? アイツらやられちゃったら田村君とこいくだろうし……。それに、あんだけデカイやつだと左町さんもやりやすくていいんじゃないすか?」
「わざわざ、あんなの相手したら……」
しかし、勇者の方を見るとチラチラとそちらの方を気にしてるように見える。集中しろよお前……。
「あー! くそっ!」
────────
勇者の仲間達はすでに満身創痍であった。にも関わらず、帝国が抑えていたはずの『黙示録の竜』が突如現れた。
その巨躯から繰り出される一撃は地をえぐり、口から繰り出される炎は黒く、盾や防具をなかったかのように身を焦がした。
「く、くそっ……ナオトの所には行かせるな!」
「で、でも……もう……」
もはや、立つことすら出来ない勇者の仲間達に容赦なく竜の黒炎が襲いかかる。死を覚悟したその時、竜の前に立ちはだかる男がいた。男がスッと腕を前に突き出す。すると辺り一帯を飲み込まんとしていた黒炎が一瞬でかき消えてしまった。
竜は自分の黒炎が消された事に驚き、一声あげると今度はその男に向かって巨大な腕を振り下ろし……
消えてしまった。
「え?」
その場には竜が残した一撃のその風圧だけが残り、砂埃を舞いあげる。
皆あっけにとられていたが、その男は何事もなかったかのようにそこに立っていた。
「お、おい。アンタいったい……?」
その問いかけには答えず、見向きもしないまま男は急いでいるかのようにその場を走り去っていった。
────────
「ハァハァハァハァ、ハッ……や、やばかったー……後ろからコッソリやろうと思ったら、勢い余って前に出ちゃって……死ぬとこだったわ」
「お、戻ってきたっすね。さあ、そろそろっすよ。頑張ってサクッと行って来て下さい」
オレを前に向き直させる。
なるほど。
いつのまにか勇者は倒れ、もはや指1本動かせない状態だ。
魔王は笑っていた、もはや自分に付き従う者のいない世界で。自分を嫌悪する生き物しかいない、この世界で。
「って、やられてんじゃねえか!」
「しっ! こっからっすよ」
しかし、ご存知の通り勇者はこれで終わらない。終わらない、故に勇者なのだ。
瞬間。眩い光に勇者が包まれたかと思うと、立ち上がった勇者。そしてそこから繰り出された一閃。
目にもとまらぬ速さで魔王を一刀の元に斬りふせた。剣圧により雲に覆われていた空は割れ、残っていた雲は遅れて来た衝撃波にかき消された。とてつもない威力であったことがうかがえる。
ボロボロと崩れていく魔王の体を勇者は悲しそうに見つめていた。
彼にとって長い戦いだった、数々の犠牲のうえに掴み取った待望の勝利。しかし、歓喜の声を上げるでもなく崩れていく魔王をただジッと見つめている。
断末魔の叫びを上げるでもなく魔王はただただ崩れ去り塵と化した。
勇者直人の勝利だ。
仲間達は満身創痍の体を引きずりながら勇者に駈け寄る。ある者は歓喜の雄叫びをあげ、またある者は泣きじゃくりながら。
そして皆ボロボロの中、一際元気よく手を振りながら駈け寄って来る中年男性に勇者は気付き、目が合った。
「え? 誰でしたっ…うっ? 」
駈け寄る勢いを殺すことなく、手に持った短剣で勇者の足をチクリと一刺しした。
「ごめん」
そう言って短剣を引き抜く。この短剣にかかればステータスや防御、防具、どこに刺さったかすらも関係ない。
終わりだ。
魔王を倒した、その直後。勇者直人はあっさりと絶命した。
「おー、慣れてきたっすね。元の世界でも、それで食べていけますよ」
拓光は関心したように言うが……。なんだ、それ。殺し屋でもやれってか?
短剣を懐に仕舞うと世界にノイズが走り始める。
「まあ当然というか、当たりでしたね。まあそりゃ、あんだけ都合よくポンポン事が運んでれば間違いないか。名前も変えてなかったし」
拓光の話に耳を傾けながら、勇者の亡骸を見つめる。
彼で3人目になるが。やはり慣れない。
「他のみたいにパッと消えてくれりゃいいんすけどね……まあ、大丈夫っすよ左町さん。これで、ここの世界も終わりっす」
拓光の言うとおりだ……プレイヤーの亡骸が最後まで残るのは毎回嫌な気持ちになる。
後ろから勇者の仲間達が体を引きずりながらこちらにきている。
「ほら、来るっすよ。離れましょ」と拓光が勇者の亡骸からはなれるように背中押す。
亡骸から離れながら、こちらの心中を察したのか拓光が諭すように語りかける。
「彼もほら。パッとしない人生で、いい目見れてるわけだし。まあ、やっと今からってとこだったんだけど……でも、オレツエーでチヤホヤされてハーレムつくって、あんなパッとしないチー牛が童貞も捨てれてるわけだし……まあ、その女の子の目の前で殺しちゃったんだけど」
ヤなこと言うなコイツ。
少し離れた直人の遺体に泣きすがる美少女。ハーレムの中の一人か、はたまたヒロインか……
どうせ消える世界とはいえ気分はよくないな。
「なあ、拓光。」
「はい?」
拓光は振り返らずに返事をする。転移の衝撃にそなえてるようだ。脇を締め、顎をひき、身を縮めている。
「本当にオレらが転移した後にこの世界って消えてるの?」
「さあ? そういう説明でしたよねってだけで……『プレイヤー』が死んだら世界も消えるって。でも……オレ思うんですけど……」
そこで背中から衝撃をうけ景色が後ろへ吹っ飛んでいく。
転移がはじまった。
対転移衝撃姿勢をとってない自分は転移の衝撃で脳が揺さぶられる。気が遠くなっていくなか、衝撃で頭が後ろへ持っていかれ、勇者の亡骸と泣きすがる女の子を視界の端に捉えた。
さきほどの疑問や悲哀は衝撃と一緒に飛んでいってしまったのだろうか?
痛々しい、その二人の姿を見ても「首痛ぇ」の感想を残すのみで、そのまま意識を失った。
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よければ…ホントについででいいんすけど…
★下さい!頼むよぉ
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