あが父

シキウタヨシ




あなたと盃を交わすのは

ぼくが下戸だから無理だとしても

ただたわいもない話をしたり

ちょっとした相談をしたり

「似合うかなと思って」と言って

豆しぼの手拭いを贈ったり

そんな些細な幸せは

あなたとはもう望めないんだろうか

時間はもう限られてしまったから

少しずつとはいかない

それにはあなたの蝋燭が

だいぶん短過ぎるだろう

ぼくはあなたの本を作るつもりで

書き溜めているところだけれど

あなたの冷徹な反応を

見るのが怖くてまだ作れない

それも時間がないのだから

ぐずぐずしてはいられない

父よ

わが半身よ

願わくば一度だけ

そうただの一度だけ

わたしの方を向いてください

わたしの話を聞いてください

もうそれ以上は

わたしに

望むらくもないから






/了

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あが父 シキウタヨシ @skutys

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